「あ〜、しまった」

波児の声が店に響く。

「どうしたんですか? マスター?」

夏実とレナがカウンター越しに冷蔵庫を覗き込んでいる波児を伺った。

「コレを、すっかり忘れてた…」

波児が冷蔵庫から取り出したのは、すっかり乾燥しきってあちこち砕けだした餅だった。








ひなあられ





「かびない様に冷蔵庫に入れてスッカリ忘れていたんだよ」

「で、それどうすんの?」

カウンターに置かれた餅は手で簡単に砕けるほど乾燥している。銀次が興味津々にその餅をつつきまわしていた。

「捨てるしかないよなぁ」

「もったいねぇなぁ…」

「使い道がないだろう?」

「んじゃ、あられでも作るか?」

「あられって、作れるんですか?」

「簡単だぞ?」

蛮が首をかしげて、夏実とレナを見る。

「ひな祭りも近いし、雛あられとか作るか?」

「この餅だけで足りるか? 他の入用なものは?」

波児に聞かれ、蛮はちょっと考え込んだ。

「んー、後はご飯と、砂糖、抹茶、食紅、炒り大豆、醤油くらいか」

「ご飯って?」

「ああ、余り飯を冷やしたのとかあると早いかな」

「昨日のあまりがどんぶり1杯ほどあるが…」

「んじゃ、下ごしらえするか」

蛮は腕まくりするとカウンターの中へと入っていった。





「まずは餅の方か」

餅を砕き、細かい欠片にしてゆく。それをざるに入れ水洗いした。

「コレを乾燥させる」

浅いざるに広げるように餅を敷き、カウンターに置いた。

「次はご飯だな」

ご飯も水で洗い解してゆく。それも餅と同じ様にざるに敷いた。

「あとはしっかりと乾燥してからだな。天日じゃ時間掛かるが温風ヒーターとかの前にでも置いておけば早いだろ?」

「今日は食べれないの? 蛮ちゃん」

「出来上がるのは多分、あさってだな」

「明日一日、乾燥させればいいんだな?」

「そ。残りの調味料とかも要るのはそのときだしな」

夏実とレナ、銀次はざるに盛られたモノをしげしげと見ていた。

















「んー、しっかり乾燥したな」

蛮はざるの中のモノを手でざっくりと解した。乾燥する時にくっ付きあうからだ。

餅は35ミリの大きさの粒になった。ご飯は米を少し大きくしたような感じだ。

「んじゃ、餅からいこうか」

フライパンに薄く油を敷き、良く熱してから餅を入れ、炒る。

焼けてくれば餅は少し膨らんでくるからすぐ分かる。

「夏実。砂糖醤油を作ってくれるか?」

「砂糖の量は?」

「好みで。甘いのが良いなら多く。少なくてもザラメ糖をまぶす手もあるしな」

出来上がった砂糖醤油に炒りあがったあられをからめ、半分にはレナの希望でザラメをまぶした。

ザラメは熱い内にからめるのがコツだ。

それをバットに広げた。

「後は乾くのを待てば良い。じゃ、次はご飯かな」

からからに乾燥したご飯は見た目もただの米に近い。

くっ付きあっているのをほぐし、150180度に熱した油にざる(てんぷらを掬うやつ等)に載せて揚げる。

すぐに白くはじけてくると、それを油とりの紙を敷いた上に載せる。

次々と揚げて、乾燥ご飯がなくなった。

「次、砂糖を鍋で煮溶かして、3分の2の揚がったご飯をからめる。それを半分にして、半分には抹茶をまぶす。コレもさっきのザラメと同じで熱い内にまぶす。抹茶をまぶさない残りはそのまま乾かす。で、砂糖をからめてない残り3分の1には煮溶かした砂糖に食紅を混ぜたモノを作って、それにからめる。あとは炒り大豆にも砂糖を絡めて……。これで完成」

「以外に簡単ですね。自分でも作れそう」

「だろ?」

銀次が広げられたあられを摘んで口に入れた。

「甘くておいしい。蛮ちゃんってほんと何でもできるねぇ」

「銀次! つまみ食いするなよ。今日の主役は夏実とレナなんだから」

「あ、今日はお雛様ですもんね」

「はい」

2人は手を取り合ってにっこりと笑った。











おわる









:コメント:

手作りのあられは如何でしょう?

以外に簡単です。餅は細かくするのが少し大変ですが、ご飯の方は乾燥させればいいので楽です。残りご飯で作れるし。抹茶をまぶざずに抹茶入りのお茶を濃く煮出す方法もあるらしいです。

出来上がりは白、ピンク、緑でいかにもひな祭りらしいでしょ?



分量を知りたい方はこそっとお知らせください。おおざっぱなものでよければお教えしますので。(焔)






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