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秋も深まると、木々は痛々しいほどの姿を晒す。街中でも、公園でもそれは同じ事。

そのまま季節は冬へと一直線だ。

11月も間もなく終わる頃、街は既にクリスマスムードだった。

「ハァ、早いなぁ。今年はどうしようかな」

銀次はホンキートンクのカウンターに突っ伏して呟いた。

因みに相棒である蛮の姿はない。

「そんなの、本人に聞けば早いだろ」

「だめだよ。あの意地っ張りの蛮ちゃんが素直に欲しいモノなんて言う訳ないよ」

カウンターから身を起こした銀次は拳を握りしめ力説する。いかに蛮が素直でないかを。

「それを上手く聞き出すのも相棒の力量じゃないか?」

波児にそう言われれば、そんな気がしてもくる。

「でも、きっと無理。だって、そういうの蛮ちゃんの方が得意なんだもん」

情けなくタレる銀次に波児は苦笑を返した。




カランとドアベルを鳴らして蛮が帰って来た。

「う~、さびぃ」

いかにも寒そうに首をすくめ自分の両手で自らの腕を擦って暖をとろうとしている。

「お帰り、蛮ちゃん」

「おう、大人しくしてたか?」

「うん、勿論。それで、マリーアさんの用事ってさ、何だったの?」

「ああ、たいした事じゃねぇよ」

蛮がこういう言い方をした時は大抵内容を話したくない場合が多い。付き合いの長さで銀次は理解していた。

だから「ふうん」と生返事を返しただけ。でも、それに蛮が突っ込む事はない。

「それより、随分寒そうだな」

「あ、木枯らしがふいてるからな」

「それでか。鼻の頭、真っ赤だぞ」

「ホント、蛮ちゃん平気? 風邪っぽくない?」

波児の言葉に銀次が蛮を振り返れば、彼は鼻の頭どころか顔自体が朱い。瞳もどことなく潤んで熱っぽいように見える。

「平気だって、ここでちったぁあったまったからな」

そんな蛮の様子を見て、銀次のプレゼントは決まった。




花月達の協力で必要な材料を揃えた。あとは夏実に協力してもらう事になっている。

「サァ、銀ちゃん。頑張ろう!」

「うん。よろしくね」

夏実の指導の元、慣れない作業に銀次は取り掛かった。期間は三週間。

不器用な銀次にとっては短い期間だ。

それだけの時間で間に合わせなければならない。しかも蛮が居ない時間だけしかできないうえ、奪還屋としての仕事だってある。

銀次の焦りを余所に、時間は無情に過ぎていった。




そして、迎えた12月17日の朝。


冬のねぐらにとなんとか借りたぼろアパートの部屋で銀次は蛮にそれを渡したのだった。

「誕生日、おめでとう」

「あ、ああ。‥サンキュー」

お祝いの言葉と同時に突き出すように差し出された包みを蛮は困惑しながらも受け取った。

「これ?」

「誕生日、プレゼント」

「開けて見ても、いいか?」

「うん」

がさがさと包み紙を開けると、中からはグレーのポワポワしたマフラーが現れた。

「マフラー?」

「うん、いつも寒そうにしてるから、いいかなって」

蛮はマフラーを手に取って広げた。柔らかい毛糸で編まれたマフラーの手触りは思った以上によかった。これで編み目が揃っていたら文句のつけようもないほどの高級品だろう。

「コレ、ひょっとして、お前が編んだのか?」

「うん。初めてだから下手くそだけど一生懸命編んだんだよ」

蛮は手に持ったままのマフラーを首に巻いた。

「暖かいな」

「本当?」

「嘘ついてどーすんだよ」

照れた顔はほんのり桜色だ。

「この毛糸、高かっただろ?」

「かづっちゃん達に協力してもらったんだ」

なるほど、と蛮は小さく呟いた。

首に何度も巻きつけられるほど長いマフラーの毛糸代だけでも、今の自分達では簡単に捻出する事など出来ない。

悲しいかな、金は入ってくるより出ていく方のが多いのだ。

夕方からホンキートンクで蛮の誕生祝を兼ねたクリスマスパーティーが開かれる。

本来蛮はあまりパーティーなどの祝い事を敬遠する傾向があるのだが、金のない今ならただ飯にありつける少ない機会だ。参加しない手はないだろう。

「さて、ホンキートンクには夕方行けば良いんだろ?」

「うん。何? なにか予定あるの?」

にっと笑って蛮は答えなかった。







夕方の待ち合わせ時間より若干遅れて、二人はホンキートンクに姿を現した。

「も~、遅いぞ~」

ヘブンが冗談めかした口調で文句を言い、ドアの前に立つ二人を奥のボックス席へと追い立てた。

綺麗にセッティングされたテーブルや店内のきらびやかな飾りつけは、シンプルだけど華やかなもので一足早いクリスマス気分を盛り上げるには十分すぎるほどだ。

「うわぁ、凄いねぇ」

「朝からみんなで手分けして準備してましたからね」

にこやかに花月が応えた。

「え~、言ってくれれば俺も手伝ったのに」

「銀ちゃんは、十分手伝ってくれたですよ?」

夏実がニコニコ笑いかけて言うと、他の皆も頷いて同意の意を示していた。

「??? 手伝って?」

「はい。蛮さんを一日、エスコートしてくれてたでしょう?」

「そうそう。そうじゃなきゃ、天の邪鬼なアイツがちゃんとココに来る訳がないもの」

夏実と卑弥呼だ。

「あ、あ~。エスコートっていうほどじゃ‥‥ないけど」

確かに朝からココに来る時間まで、蛮を相手に色々あったわけで。

それを、エスコートと言って良いものかは判断が微妙なところだろう。

「良いんですよ、細かい事は。ちゃんと来てくれたってだけで」

「さあ、皆揃った事だし、席に着いてグラス持って」

波児の声を合図にして、皆は席に着き、グラスをそれぞれ好みの飲み物で満たして手に持った。

「じゃ、銀次。よろしく」

「え? 俺が音頭とるの?」

「他の誰がやるって言うんだ? お前の相棒のことだろう?」

そっか、と呟き立ち上がる。

「ええ~と、蛮ちゃん、誕生日おめでとう。それと、早いけれどメリークリスマス!」

集った皆が口々に唱和して、蛮は照れて茹でたように真っ赤になった。

「は、恥ずい奴~。で、でも、ありがとう」

お礼の言葉は小さかったが、皆にはちゃんと伝わったようだ。

「僕らからのプレゼントは銀次さん経由で渡ってますよね?」

「あ、ああ。毛糸、だろ。柔らかくてあったけぇよ」

「じゃ、私達からはこれを」

夏実とレナは綺麗にラッピングされた包みを差し出した。

「サンキュー。開けて良いか?」

「勿論です」「ハイです!」

二人のめいっぱいの返事を聞いてから、蛮は丁寧に包みを開けた。

中から現れたのは、銀次から貰ったマフラーとそろいの毛糸で編まれた帽子と手袋だ。

「これ、お前らが編んだのか?」

「はい。帽子はレナちゃんです」

「手袋は先輩です。手袋は難しいんです」

蛮は帽子と手袋を着けて見せた。

「あったけぇな。サンキュー」

「私はこれね」

ヘブンが差し出したのは、有名ホテルの食事券だ。しかも正月のものだ。

「お正月くらい、そこで豪華な食事してきなさいよ」

「うわぁ、凄~い。こんな料理食べられるんだ?」

チケットに印刷された料理の写真を見て、銀次の目がキラキラと輝いている。

「あたしはこれ」

卑弥呼が差し出したのは車のハンドルにかけておくカバーだ。

「冬はあった方が良いでしょ?」

「サンキュー」

「で、最後は俺からだが、このパーティー自体、かな。好きなだけ飲み食いしろよ」

「あっと、これはまどかからだ」

士度が思い出したようにポケットから封筒を差し出した。

「お、クリスマスのリサイタルのチケットじゃん。手にはいらねぇんじゃなかったか?」

「先に取ってあったんだとよ。聞きに来てくれって‥」

「嬢ちゃんに、お礼、言っといてくれよ」

「あ、ああ。分かった」

受け取った封筒を蛮は大事そうにジャケットのポケットにしまったのだった。




テーブルには次々と料理が追加され、飲み物も他種多様に用意され、騒ぎにさわぎ、大いに食べて。

こんなパーティーが何度も繰り返されてきた。

段々、本当にすこしずつだけれど、蛮の中にあった、自分の誕生日、と言うものじたいの禁句が薄れてきている。

祝っても良いのだと、皆が祝いたいのだと、銀次が何度も教えてくれた。

蛮にとって『誕生日』というもの自体が禁句じゃなくなるのも、そんなに遠い未来じゃなさそうだ。



誕生日、おめでとう。

  ココには、貴方が生まれてきた日を、祝いたいと思っている人が、集っているんだよ。





終り



コメント:

蛮ちゃん!誕生日おめでとう!!!

今回はちゃんと間に合った。ギリじゃないはず。TOPイラストも出来てるしね。ちょっと意味不明文なのははじめに考えていた話と結構変ってしまった所為です。(焔)




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