「ありがとうございました」
やたらに明るい店員の声に圧されるように店の外にでた。
気分は曇りのち晴れ
陽が落ちたあとは如何に暖かくなる時期とはいえやはり肌寒く感じた。
蛮は手の中の包みを大事そうに抱え直し歩き出した。
「らしくねぇけど‥な」
蛮はぼそりと呟く。誰にも聴かれていないからこその呟きだ。
渡せば銀次はきっと喜んでくれるはず。
いくら考えても、銀次の欲しがるものなど思い付かず迷いに迷って漸く思いついたお返しのプレゼントだ。
問題は渡した後の事だ。
おそらく銀次の事だから、それが蛮からのプレゼントだと仲間たちに言いまくるはずだ。
となれば、その後に蛮は恥ずかしくなることもあらかじめ予測できて、少し鬱になる。
尤も、銀次の嬉しそうな笑顔に比べたら、些細な事なのだが。
まぁ、暫くはネタにされからかわれるだろう。
そんな事をつらつらと考えながら蛮はてんとう虫へと急いだ。
てんとう虫の荷台の雑多な物の隅に包みを隠すように突っ込んで、蛮は銀次の待つホンキートンクへと足を向けた。
ホンキートンクを閉店時間で追い出され、二人はてんとう虫へと戻ってきた。
「毛布だすぞ」
蛮はそう言って荷台に向かった。
ドアを開けて取り出した毛布を一枚、後ろから付いてきていた銀次に渡す。
受け取った銀次はいつものように助手席へと行った。
それを横目にチラリと見て、蛮は自分の毛布の中に買ってきた包みを隠して持つと、何食わぬ顔でドアを閉めた。
「あ、あのな‥銀次‥‥」
「ん?
何? 蛮ちゃん」
蛮は銀次からそっぽを向いている。
蛮の態度に銀次は首を傾げるだけだ。
(くそぉ、ただ渡すだけだってのに、何でこうドキドキするんだ)
蛮は自分の心理自体が理解できず、軽いパニック状態に陥っていた。
「どうしたの?」
緩く笑った銀次は焦らすこと無く蛮の背中を押した。
「こ、これ。お、お返し。先月の‥」
「え!
マジ。嘘! お返し貰えるなんて思ってなかった」
蛮が突き出した包みの先には、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をした銀次がいた。
そんな銀次に蛮も余裕を取り戻してきた。
「んじゃ、いらねぇ?」
「そんな訳無いじゃん」
銀次は全開の笑顔で受け取った。
「だって、バレンタインの時は、蛮ちゃんからチョコのキス貰ってたから、ホワイトデーは無いかなって、思ってたから。開けていい?」
「ああ、開けていいぞ。あの時のは、バレンタイン関係ないただのお礼だろ」
ガサガサと音を立てて銀次は包みを開けた。
中にあったのは、モスグリーンの蛮のコートと全く同じデザインのコートだった。
違いは銀次が貰った方が青みが強いグリーンだという点だけだ。
「サイズはコレと同じだ」
「うわあ、お揃いのコート。蛮ちゃん、ペアルックなんて嫌がると思ってた」
「嫌つーか、ハズぃだけだ」
蛮の顔はすでに赤く染まっている。
銀次は余計に嬉しくなった。
ペアルックなんてしていれば、からかわれるのは蛮だけだ。
それを蛮は知っている。
それなのに、このコートを選んだのだ。
だから、何とか蛮ガからかわれない方法がないか、銀次は必死に考えた。
また、蛮にこの嬉しさを判って欲しかった。
「あ‥」
「どうした?」
蛮は少し不安そうに瞳を揺らして銀次を覗き込んだ。
「サイズ、合わねえ?」
「ううん。オレさ、このコートより欲しいのがあるんだ」
「??」
「あのね、今蛮ちゃんが着てる方のコートが、欲しいんだ」
「これはもう一年着た、お古だぞ?」
「うん!
それが欲しいんだ。だから、この新しいコートは蛮ちゃんが着て」
蛮は銀次の言葉で、その想いを理解した。銀次はペアルックで蛮がからかわれる事を少しでも少なくしようと考えたのだ。
しかし、逆に古着を押し付けたとは言われるだろう。だか、蛮からみればその方が楽だから。そして、蛮ならそう考えるだろうと思ったのだろう。
「解った、じゃこのコートをやるよ」
蛮はコートを脱ぐと丁寧に畳み銀次に差し出した。
「ありがとう」
お日様笑顔の銀次に蛮も笑顔になった。
銀次から新しいコートを受け取り着た。銀次も同じようにコートを羽織った。
「蛮ちゃんの匂いだ〜。なんだかいつも抱きしめてもらってるみたい」
「‥‥‥」
すぐに銀次の頭の辺りでゴツンと音が鳴った。
「なんでなぐるの〜」
「ハズぃ!」
「も〜〜」
銀次は瘤をなでながら黙る。でもその表情は不満げに口を尖らせたものだ。
「明日、マフラー買いに行こうな」
「え?」
「こう、ふわふわの白いやつをな?」
蛮のマフラーはふわふわの黒いもの。つまり‥‥‥
「うん!
行こう」
銀次の機嫌は一気に上昇した。
数日後には、お揃いのコートとマフラー姿の二人が見られた。
終わり
コメント
一週間遅れのホワイトデーでした。
マガスペのポスターの2人がどうみてもお揃いのコート、マフラーをしてたのでネタにしてみたものです。
こんなドラマがあってもおかしくないよね、あの2人なら。(焔)
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