不器用な君
目を覚ます。
夢にうなされて起きた訳ではない。
体が時間だと覚醒したのだ。
まだ眠い目は閉じたまま、鼻をひくつかせ、耳を立てる。
この時間になると、キッチンからは美味しそうな香りと、大好きな人が自分の名を呼ぶ声がするからだ。
しかしいくら鼻をひくつかせても、耳を立てても、何も匂わないし聞こえない。
おかしいと思い目をあけると、目の前には黒い物体が…
「!!?ば、蛮ちゃん?」
腕の中に蛮がいたのだった。
びっくりしながらも、声を抑えて叫んだ銀次は流石だ
蛮は「ん〜?」と小さく唸っただけで、目覚める気配はない
(アレ?蛮ちゃんってこの時間は起きてる…よね?)
時計を確認しようにも腕の中に蛮がいるのだ。
(動いたら起きちゃうかなぁ〜?)
ジッと蛮の顔を覗き込む。
髪を下ろしてあって、普段よりも、歳よりも幼く見える。
(あっ、腕も動かせないや)
ずっと蛮の頭が腕に乗っていたのだろう
痺れた、痛いの感覚など、全くなかった。
(…蛮ちゃんって本当に綺麗だよね…)
サラサラの黒髪に、白い肌、今は閉ざされているが長いまつげの下には意思の強い瞳がある。
思わず銀次はゴクリと唾を呑んだ。
こんなに蛮の顔を近くで覗き込むのは久しぶりだったからだ。
いや、寝顔なんて珍しいに等しい。
(ちょっとだけなら…大丈夫だよね?)
息を止めて、蛮の額に口付ける。
チュッと少しだけ音を鳴らしてみた。
そっと離れて蛮の顔を見てみたが、変わりはなかった。
(へへへっ)
いつもは音を鳴らしてキスするのを嫌がられてしまうので、今の内にめいいっぱいしておこうと銀次は考えた。
そして実行に移す。
額、こめかみ、まぶた、鼻筋、耳、頬…
そして最後に唇
本当はもっといろんな所にしたかったのだが、これ以上動いてしまうと蛮が起きてしまうかもしれない。
銀次はちょっと残念そうな顔をして、もう一度口付けた。
さっきの軽く触れただけで離れたのを、今度は長く口付ける
もぅ離そうかなっと思った時に、ヌルリと生暖かい物が銀次の唇を舐めた。
「!!!!?」
反射的にバッと顔を離すと、目の前には意地悪気にニヤリと笑った蛮と目が合った。
「ば、ばばばばばば蛮ちゃん!?起きてたの!?」
「おぅ。大分前からな」
「だ、大分前からって…いつから?」
「ん〜?さぁ、いつからでしょう?」
「なっ!お、教えてよ!!」
急に気恥ずかしくなって、顔を真っ赤に染めて蛮に問い詰める銀次に、蛮はケラケラと笑いながら
「少なくとも、お前がキスする前から」
「…んあぁぁあぁ!!!」
恥ずかしすぎて、ビチビチとタレてしまった銀次を、蛮はガシッと掴んで胸元まで引き寄せて、ギュッと抱きしめた。
「ば、蛮ちゃん?」
てっきり殴られてしまうと思っていた銀次は、蛮の意外な行動につい声が裏返ってしまった。
「うるさい…少し黙ってろ」
「…あぃ」
しばらくそうしていたのだが、ギュゥッと抱き着くのに飽きたのか、蛮が銀次の頭に軽いキスを何度もした。
「あ、あのぉ…蛮ちゃん?」
「ん〜?」
「いつになったら止めてくれるのでしょうか?」
「嫌なのかよ?」
「嫌じゃありません!!」
「じゃあ何なんだよ」
「あ、のぅ…お、俺からもしたいんですが…」
「……」
蛮は無言で銀次を離した。
銀次が不思議そうに蛮の顔を覗き込む
「蛮ちゃん?」
「ん」
すると蛮は目を閉じて、唇を少し突き出していた。
「ん」
「…え〜と、いいの?」
「オメェがやりたいって言うから待ってやったんだけど…嫌ならいいぜ?」
「嫌じゃありません!やらせて下さい!!」
銀次はガバッと蛮を抱きしめて、深く口付けた
銀次が舌を入れようとした時、先に蛮の舌が銀次の口内に入ってきた。
(ば、蛮ちゃんが!!?)
普段蛮から舌を入れてくることは少ない。
銀次はびっくりしたが、この機会を逃すまいと蛮の舌に己の舌を絡ませていった。
「ふっ…ん」
呼吸が上手く出来なくて、頭に靄がかかったかの様にぼんやりとしてきた。
「…ぷはっ」
互いに唇を離し、酸素を取り込む。
荒い呼吸を繰り返すと、頭がはっきりとしてきた。
「蛮ちゃん…」
グギュルルルル…
いざ、このままの甘い雰囲気で!と事に及ぼうとした時、銀次の腹が盛大に鳴った。
沈黙が二人の間に生まれる。
「…飯食うか」
先に切り出したのは蛮
「…はい」
そしてやはり空腹感には負けてしまうのか、銀次がすまなそうに言った。
蛮の手作りのご飯を食べ終え、皿洗いを終えた銀次はさっきまで自分が座っていた所へ戻ると、そこには蛮が横たわっていた。
「…蛮ちゃん?どったの?」
蛮はチラリと銀次を見て上半身を起こした。
「とりあえず座れ」
ポンポンと叩かれた場所はさっきまで銀次が座っていた所。
ここに座れということなのだろう
「うん」
チョコンと座った銀次に、蛮は起こした上半身を預けて、持ってきていた本を読み始めた。
「蛮ちゃん?」
「ん?」
「本当にどうしたの?」
「べ〜つに」
普段、機嫌がよくても余りしてこないことを、今日は蛮自らがやってくる。
銀次は何かあると思い聞いてみたが、蛮はさらりと受け流した。
(…ま、いっか)
こんな事、蛮ちゃんから進んでしてくれることはないから、っと銀次は思い、今の状況を楽しむことにした。
太陽が地平線に隠れ、月が真上に上った頃
「銀次、風呂入るぞ」
「うん………えっ?えぇぇえぇぇ!!!??」
いくら銀次が「一緒にお風呂入ろう」と言っても首を縦に振ってはくれないに、今日は蛮自らが銀次を誘ったのだ。
「何だよ?嫌なのかよ?」
「嫌な訳ないじゃん!!」
嬉々として服を脱ぎ始めた銀次を見て蛮は
「風呂狭いんだから、お前タレてろよ」
「…あぃ」
ちょっと残念だけど蛮ちゃんと入れるならば!っと意気揚々と銀次(タレ)は風呂場へと向かった。
それからというもの、風呂では湯舟に一緒に入っている時、蛮はタレ銀を膝の上に乗せて抱きしめていたり、頭を洗ってやったり…とにかく銀次が喜ぶようなことがずっと続いた。
今、蛮は銀次の腕の中で寝ている。
銀次は蛮のサラサラした髪の毛をいじっていた。
(蛮ちゃん、今日は本当どうしたんだろう?)
蛮の顔を覗き込んでも、蛮は気持ち良く眠っていて、返事など返ってくる筈も無かった。
(こんなに甘えてくれること無いのに)
銀次はフゥッと溜め息を吐いた。
でもそれは疲れたからとか、呆れた溜め息では無かった。
「「銀ちゃん、誕生日おめでとう〜!」」
パーンとクラッカーの音が鳴る。
出迎えてくれたのは、Honky
Tonkの看板娘達だ。
「1日遅れですけど」
「これ、私達からのプレゼントです」
「…俺の誕生日、昨日だったっけ?」
夏実とレナからのプレゼントを受け取り、そーいえば自分の誕生日が近かったことを思い出した。
銀次は蛮の方を見てみると、彼はマスターと話していた。
「銀ちゃん、昨日蛮さんから何か貰いましたか?」
「うん」
「どんなの貰ったんですか〜?」
目をキラキラと輝かせて看板娘達が聞いてきた。
それに銀次は満面の笑みで…
「俺が凄く、欲しかったもの」
end
やっと終わりました〜!
神成焔様リク『銀次に甘える蛮ちゃん』とのことだったんですが…
甘えてる…?
いや、これは甘えてるというより、誘っているの方が多かった気が…orz
本当スイマセン(ノ_・。)
神成焔様リクと銀次の誕生日を一緒にしてしまい、スイマセンでしたm(_ _)m
もぅ家の蛮ちゃんは、何か理由がないと甘えられないみたいで…
理由があっても中々甘えてくれませんでしたが…(・_・;)
もぅちょっと銀次くんを頼りにしてもいいと思います。
それでは神成焔様、リク本当にありがとうございました!
これからも当サイトをよろしくお願いしますm(_ _)m
夜月天星
携帯サイトの『星影』様よりキリ番8000Hitを踏んでいただきました。
甘え方が、可愛い。うんうん、蛮ちゃんってば素直じゃないからね。何か理由がないと照れちゃってダメなんだよね。ウチの蛮ちゃんってば甘えまくりの乙女が多いので他のサイト様の蛮ちゃんは見てて楽しいです。 夜月天星様、可愛いお話ありがとうございました。神成焔
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