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色とりどりのリボンや包装紙で飾られた小さな箱が所狭しと並んでいる。 2月に入ってからなら、何処の店でも当たり前に見られる光景だ。
そう、バレンタインデーの為のチョコレート。その専用の売り場コーナーだ。 夕方や休日などは女の子達で賑わう売り場も、平日の開店直後な時間帯には閑散としたものだ。
その売り場を、柱の影から伺う怪しい人影があった。本人はこっそりと様子を伺っているつもりなのだろうが、金色の頭が悪目立ちして、矢鱈に怪しい人に見えてしまうのだ。 蛮はそんな相棒の後姿を眺めつつ、溜息を吐いた。 そのまま、おもむろに手加減した拳骨を一つ。オマケに怒声も付けた。 「テメェは、何してんだ!」 「あ、いたたたっ…、ば、蛮ちゃん、酷いです~」 「ああ? どの口だぁ? そういう事を言いやがるのは」 蛮はタレて文句を言う銀次の両のほっぺたを掴むとぎゅ~っとこれでもかと左右へと引っ張った。それで、気が済んだのかぱっと手を放され、銀次は重力にしたがって床と仲良しのベーゼを交わすことになった。 「痛たたた、もう!」 「で、どっちがひでぇんだ? 波児に頼まれた買い物を人に全部押し付けてチョコ売り場を眺めてた奴か? それとも、サボってチョコ売り場を眺めてたボケを殴った俺様か?」 「ご、ごめんなさい! 俺のがわるいです~」 そう、GBの2人は只今ツケのカタに波児のお使いを済ませている最中なのだ。そうでなければ、万年金欠の2人が開店時間直ぐに、スーパーになど居る事はほぼあり得ない。 大体がスーパーに足を運ぶのも、閉店時間間際に叩き売り状態の惣菜や弁当を買う為なのが殆どなのだから。 「だって…、蛮ちゃん、くれないかなぁって思ってさ」 「ほ~、お前の言う『蛮ちゃん』とやらは、俺とは別人らしいな。なんで、俺様がバレンタインのチョコを買わなきゃなんねぇんだ?」 「だって、俺が! 蛮ちゃんからのチョコが欲しいんだもん」 「俺はやりたくねぇ。つーか、俺様だって貰う立場だぞ。何で俺が男にチョコやらなきゃなんねぇんだ?」 店内で大声で叫びあっていればイヤでも人目を引く。幾ら客の少ない時間帯だとしても店内には店員だっているのだ。 周囲の好奇の視線に気付いて、我にかえるのは蛮の方が早かった。 「と、兎に角だ。さっさとホンキートンクに帰るぞ。頼まれた買い物は終わったんだし」 恥ずかしさに少々赤くなった顔を、誤魔化すようにそっぽにむけて蛮は振り返りもせずにずんずんと歩いていってしまった。 「あ……、あ、待って、置いてかないでよ~」 蛮を思わず見送りかけて、我にかえった銀次は慌てて追いかけて店を飛び出していった。
「チョコって…、男の子からでも貰いたいものなのかしら?」 「さぁ? あ、でも海外のバレンタインって男性が女性に花を送るのが普通らしいわよ?」 「へぇ、そうなの」 「チョコってのは日本くらいなのかしら」 2人が去った後、ボソボソと交わされた会話だ。声を潜めているのは内容が内容だからだろうか。 「でも、あの2人って、ひょっとして男同士のカップルだったりしてね」 な~んて冗談よぉ、と笑うレジ係のおばちゃんだったが、まさかそれが真実を言い当てているなどとは露とも思ってはいない。
何にせよ、平和な日々では人々もおおらかになるものらしかった。
さて、はたして銀次は蛮からのチョコレートをゲット出来たのだろうか?
終わる
コメント: 短いです。しかも銀蛮?な、内容です。(だって、他のサイトさんでは皆ちゃんとチョコ貰ってるからこういうのもいいかな~って。ダメですか?)きっとこの後、銀次の粘り勝ちで、蛮ちゃんはチョコを買ったことでしょう。
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