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気を失ったままの蛮をぎゅっと抱きしめ、そっと彼の内から自身を抜き取る。
そして銀次は部屋を出た。
少し時間をおいてから戻って来た彼の手には、お湯を汲んだバケツとタオルがあった。
自分もシャワーを浴びてきたらしく、銀次の髪は湿ったままだ。
バケツをベッドの近くに置き、タオルをきつく絞った。
それで蛮の身体を丁寧に拭いてやる。
足枷を外し、跡についた傷の手当をして包帯を巻く。
金属でできた枷で擦れた傷は、思っていた以上に酷かった。
中に残っている銀次の精はどうしようもないから、そのままにして服を着せて整えてやる。
力が抜け切った蛮の躯は以外に重く、服を着せ終わった時には、銀次は汗だくになっていたのだった。
全部終わって、汗で湿る蛮の髪を撫でていると、失神から醒めたらしい、ぼんやりとした青い瞳が見えた。
「ごめん‥ね?
大丈夫?」
「ばぁ‥か‥‥、ねぇ頭で‥考え‥こむ‥な」
蛮は震える腕を伸ばし銀次を胸へと抱き込んだ。
「お前はよ、俺が俺で居ちゃあ、不満か?」
「‥‥ううん‥‥」
「俺が自然体で居るのは、嫌か?」
「ううん、全然」
「‥じゃ、他の奴らに話し掛けるのが嫌なのか?」
「‥うん、話し掛けるのは勿論だけど、1番嫌なのは、蛮ちゃんが笑いかける事なんだ」
「笑いかける?」
「うん。無意識だと思うけど、蛮ちゃんは時々とっても綺麗に笑うんだ。それを、他の人なんかに見せたくない」
蛮は大きく息を吐いた。
「‥原因は、そこか」
「うん‥‥」
蛮の胸から顔を上げ下から見上げた。呆れられたかと内心はびくびくしていたのだが。
蛮は笑っていた。
柔らかな、とても綺麗な笑顔で。
「あのな、銀次。俺はな、お前と逢うまでは笑うって事を忘れてたんだ」
そう言われて銀次は思い出した。
初めて会った時の、冷たい瞳の蛮。凍え凍てついた心を余す事なく映していたあの蒼い瞳。
「それを奪り還えしてくれたのが、お前なんだ」
「‥‥そっか‥‥ごめん‥酷い事して」
「酷い?
何が?」
「だって、無理矢理じゃない。こんな事」
「それがよ、嫌じゃないんだ。それどころか、嬉しいって思えちまった。お前が本当に欲しいと思うモンが俺だって思ったら、さ」
蛮の顔は真っ赤だった。
「けど、これが好きって気持ちなのかはまだよくわからねぇ。わりぃ」
「ううん‥ありがと。っていうのは、変かな?」
「いいんじゃねぇ?
お前らしくてさ」
そうして、二人は抱き合ったまま眠った。
明日からは、今まで通りで少しだけ違う日常が戻ってくる筈だ。
貴方だけが、私にとって永遠の人。
ファム・ファタール
終わり