■オラショ(2万HIT記念フリー)



「ねぇ?蛮ちゃん。死んだら、人間は何処に行くと思う?」
「土の中。」

すげなく蛮は答える。
蛮ちゃんらしいと、銀次は苦笑いを浮かべた。

「俺はずっと、人は死んだら星になるんだって思ってたんだ。」
「お前らしいな。」

煙草を燻らせながら言うと、銀次ははにかんだ。

「でもね。無限城から見上げる空は、星なんてほとんど見えなくて…。沢山の人が死んでいるのに、何で星はあんなに少ないんだろうって思った。星になるのも、選ばれた人じゃなきゃなれないのかなぁって。」

コンペイ糖を掌で掴むように、ついと、空へ伸ばした腕。
無限城と同じかどうか、蛮にはわからなかったが、都会の空には、やはり星は少ない。

「人は星になんてならねぇ。動かねぇ肉の塊になって、骨になって、土に還る、それだけだ。
貧乏だろうが、金持ちだろうが、幸せだろうが、不幸だろうが、不公平なまでに平等に人は死ぬんだよ。どんな人間だろうと。」

冷たい言い方だったけれど、銀次は嬉しいと思った。
アンフェアな世界に生きてきた銀次にとって、誰もが平等だという蛮の言葉は、温かいものに感じたのだ。

「蛮ちゃんは、死なないでね。」

ふいに沸き上がった言葉を口にしたら、返って来たのは拳だった。
「いったー。なんで、殴るの?」
「てめぇが、アホな事言うからだろ!」
「だって、他の誰も死んじゃ嫌だけど、やっぱり俺は蛮ちゃんが…。」

言い切る前に、本日二回目の拳が降る。

「だから、なんで殴るのさ!」
「アホな事、言ってるてめぇが悪い。俺はそう簡単にくたばんねぇよ。お前は、どうなんだよ?」

銀次は、弾かれたように蛮を見遣った。
優しさの欠片もない口調とは裏腹に、蛮は穏やかな程の笑顔で見つめている。


−−ああ。そうか、死なないでと、望むのではなく…


銀次は、ゆっくりと笑顔を紡いだ。

「死なせない。それに、死なないよ。」


−−生きていたいから、君と。


「蛮ちゃんと一緒に、生きるよ。」



−−願うは、永遠。
  叶わぬのなら、土に還るその時まで。


−−土の中までも。






注:オラショ=orison=祈り(キリシタン用語)



【あとがき】
他人任せにするのではなく、一方的に庇護してやるのではなく、共に歩む事を望む。二人には常に平等であって欲しいと思うのです。
めでたくもない内容ではありますが、一応2万HIT記念としてフリーにさせて頂きます。貰ってやるという奇特な方は貰ってやって下さい。
報告は任意ですが、報告頂くと小躍りして喜びます(*^_^*)


フリーでしたので勝手に頂いて参りました。静かな感じが好きです。(焔)