初めの一歩
大きめのベッドを挟んで二人は向かい合っていた。
ここは所謂、ラブホと言われる場末の安っぽいホテルだ。 二人は手にいれたばかりの奪還料でここに来ていた。 「蛮ちゃんってば‥‥、そんなに離れて逃げなくったっていーじゃん」 「うるせぇ。俺様の勝手だろーがよ」 蛮は威勢よく返すが声が微妙に震えている。 それと言うのも先程までシャワーを浴びていてまだ髪から雫が滴るままのうえ、素っ裸だからだ。 浴室に銀次が入って来たために驚いた蛮はそのまま飛び出してきたのだ。 「恐い?」 「んな訳ねぇ!」 「なら、何で逃げるの?」 銀次はベッドの上に乗り上げた。 蛮は素早く右へと避ける。 「もう、床がびしょ濡れだよ。蛮ちゃんもそのままじゃ風邪引いちゃうよ?」 「だったら、こっち来んな」 先程からこんな状態の繰り返しなのだ。
奪還の仕事中に、何故かSexの経験があるなしで揉めた。 馬鹿馬鹿しいがそういう事にも張り合いたいお年頃なのだ。 銀次は男女ともに経験があると言う.。 そうなれば蛮は張り合い、自分の方が経験豊富だと言い切った。 ほとんど売り言葉に買い言葉だ。 それじゃあ確認しようとなって、今に至るという訳だ。 「ほんとは経験無いんでしょ? 認めたら?」 銀次は蛮の態度から間違いないと確信している。 「嫌だね」 「だったら温和しくしてよ。逃げ回るのは恐いからなんだろ」 「この俺様に限って、恐いなんて事ある訳ねぇ」 「じゃ、ベッドの上に上がってきなよ。そしたら少しは信じられるからさ」 蛮はしぶしぶベッドに上がった。銀次に恐がって逃げ回っているなどと思われるのも癪に障るのだから。 白い肌が今の少しの運動で、ほんのりと桜に染まりだしている。 漆黒の髪は濡れて艶を増し、肌の白さにコントラストを与えていた。 「すご、綺麗」 少年なのに娼婦のような色っぽさがあり、魔性の者のような艶を放っている。 「嬉しくねぇよ、それって俺様が女に見えるって言っているのと同じだろ」 蛮は憮然としたまま応じる。 拗ねたような様子は年よりも幼い印象を銀次に与えた。 「そんな事、ないよ。でも、抱きたいと思う」 「そりゃ、俺が女なら変じゃねぇがよ」 「そっかなぁ。オレ、男には抱かれた事はあるけど抱いた事は無いよ」 「ヘ?」 蛮はキョトンとして目の前の銀次を見た。 (あ、可愛い、かも) 銀次はにっこりと笑って蛮を見返す。 「確か、お前はどっちも経験あるんじゃなかったか?」 「うん。だから男に抱かれた事、あるし女を抱いた事もある。でも、男を抱いた事は無いよ。蛮ちゃんはあるの?」 小首を傾げて覗き込めば、蛮は観念したように顔をそっぽに向けた。 「ねぇよ。クソッ、お前の言う通りだよ。俺は経験なんかねぇ」 蛮は目を逸らしてから漸くそう認めたのだった。 「だろうね。態度が始めからそう言ってるもの」 「ちっ」 「蛮ちゃんってさ、口は素直じゃないけどさ、態度は割と素直だよね」 銀次はそう言いながら蛮の近くへと移動した。 そうして蛮の細い裸体を背中から、己の両腕の中に抱き込んだ。 「抱きたい、嫌?」 顔を寄せて、耳に囁くと蛮の躯がそうと分かるほど明らかに竦んだ。 銀次は蛮の反応を不思議に思い聞いた。 「抱かれた事、無いんだよね?」 蛮は小さくコクリと頷いた。 「経験はなくったって、知識はある。それこそ要らねぇ程な」 銀次の疑問をきちんと察した蛮は小さな声だったがはっきりそう言った。 「そっか、じゃ、恐いよね」 銀次はそっと、濡れたままの蛮の髪を撫でた。 強張ったままの身体はなかなか解けない。 そっとため息をつき(今回は無理だね。次のチャンスがあればいいけどなぁ)と心の中で呟いた。 「‥‥いいぜ、抱けよ」 だから蛮の声が聞こえた時には、心底驚いたのだった。 「本気?」 「ああ、けど言った通り、俺様は初めてだぞ。それでもいいのか?」 ほんのりと桜に染まる顔をそっぽに向けていて。 その素直じゃない仕草が堪らなく可愛い。 「そんな事、全然OKだよ。寧ろ大歓迎だよ」
蛮の身体を半回転させ、そのままベッドへ押し倒した。 彼の身体は強張ったままだったが抵抗はせずにされるがまま温和しい。 銀次が裸体にそっと手を這わせばびくりと身を震わせた。 室温に短くない時間曝された肌は既にひやりと冷たい。 「うわー、冷えちゃってるね。寒いでしょ」 「別に、どうでもいい。んな事」 「どうでも良くない、風邪ひくとまずいでしょ」 「どうせ直ぐにお前があっためてくれるんだろ」 「勿論だよ」 そう囁きながら蛮の滑らかな肌へ手を滑らす。 「ンッ‥‥、くすぐってェ」 微かな声を漏らして、蛮は身をよじった。 肌を撫でる愛撫に蛮の体温も徐々に上がり冷えて青かった肌色もほんのりと桜色になってくる。 「ンッ‥‥、あ、ああっ」 「気持ちイイ? まだ怖い?」 「怖くなんか‥‥ねぇって‥言って‥る」 息を荒げて蛮は銀次を睨みつけた。 「そんな瞳は反則、煽られてるみたいに感じちゃうよ」 「煽って、ねぇ‥あっ」 「敏感だね」 銀次は愛撫の手を止めない。 胸からどんどん下へと手は下りていき、そっと指先が蛮のペニスに触れた。 「!!」 びくんと大きく蛮の身体が跳ねた。 「あっ‥‥あっ‥や‥‥」 「かわいいね」 ペニスを指先だけでなぞるようにすれば、蛮は身をよじって銀次の手から逃れようとする。 体重をかけて逃れられないように押さえ込み、銀次は蛮のペニスを手の中に握りこんだ。 そうしてやわやわと強弱をつけて揉んだ。 「あっ‥やっ、あ、あ、あ、ん、んあ‥‥」 荒い息の合間から、切れ切れな嬌声がこぼれ、銀次は気をよくした。 だから、ますます調子に乗って愛撫の手を止めない。 蛮がこういう行為に慣れていないことなど綺麗さっぱり忘れていたのだ。 「やっ‥‥、あっ‥は、ひっ」 小刻み身を震わせ、必死に銀次の与える快感についていこうとしてはいる。 が、なんせ慣れていないだけに銀次のペースがつかめない。 「やっ‥、まっ、まって‥あっ‥はっ‥あ」 どんどん追い上げられて、蛮のペニスは形を変え存在を主張しだした。 身体が小刻みに痙攣をおこしたように震え、蛮の喉からは押し殺した悲鳴が小さく漏れていた。 「あっ‥あっ‥、やっ‥、はっ」 何も映していない虚ろな瞳からは涙が流れ落ち、頬を濡らす。 銀次は溢れる涙を舌先でなぞるように舐め上げた。 同時に手の中のペニスを追い上げるように扱いてやった。 「やっ‥、あっ‥あっ‥あっ‥、だ、ダメ、だっ。あっあ、あ、あ、出るっ」 びくんと大きく身体を跳ねさせて、蛮は銀次の手にその精を吐き出した。 銀次が軽く扱いてやると蛮はびくびくと背を波打たせ、全部吐き出し、次いで弛緩した躯がベッドに沈み込む。 「はぁ‥‥はぁ‥‥」 「大丈夫? やり過ぎちゃったかな」 快感に意識をとばしかけている蛮を銀次が上から覗き込んだ。 「もう、止めておこうか?」 「ヘーキ、だって」 蛮は息を整えながらも強気な態度は変える気は無いらしい。 「ならいいけど。これ以上進んだら止められないからね」 そう言うと上からのしかかるように躯をあわせた。 潤んだ瞳の、まなじりに溜まった涙をキスで吸い取る。 そのままゆっくりと下へとキスを落として行く。 首が弱いのか、肩に顔を埋めたところで、しがみつかれた。 指に蛮の吐き出したものを纏い付かせそのままゆっくり後ろの入口に触れる。 途端にぎゅっとしがみつく力が強くなる。 「怖い?」 そう聞けばふるふると首が左右に振られた。 驚かさないようにゆっくりと指を入口にはわした。 ヒダの一つ一つをなぞるように丁寧に愛撫してやれば、ヒクリと反応が返ってきた。 「あ、‥んふっ‥」 (うわぁ、やっぱ、すごく敏感) 普段の蛮を知るからかもしれないが、ギャップの大きい感じは否めない。 (女の子より、ずっと感じ易いかも) 銀次はゆっくりと指を埋めた。 出来る限りゆっくり、丁寧に少しずつ。 出来る限り怯えさせないように。 「あ‥あぁ‥うっ‥‥っく」 小さく身を震わせ、蛮は銀次の指を受け入れる。 初めて内に受け入れた異物は蛮に多大な苦痛を齎した。 歯を噛み締めて、眉間に皺を寄せて、蛮は痛みと異物感に耐えた。 「ごめんね、辛いよね」 「へー、き‥だ。あっ、うぅ‥‥」 指一本を何とか根元まで押し込み、そっと中を探るように揺する。 「は、ヒィ‥‥、や、あぁ‥」 跳ねる身体を自分の体重で押さえ込み、指の出し入れを激しくしていけば苦痛からか蛮の抵抗も強くなった。 「や‥あぁ‥‥、ひっ、やめっ!」 蛮は肩を押し返すように手を突っ張る。 それを銀次は蛮の背に片手を回す事で封じた。 蛮の中を探る指を二本に増やし、指を拡げるようにしたり指先を折り曲げ蛮の前立線を中から突きあげたり、銀次はあらん限りの方法で蛮を慣らしていった。 「や‥‥ア、はふっ、ん‥」 大分慣れてきたらしく銀次の愛撫は蛮に苦痛以外の感覚を齎しはじめた。 もどかしいそれに蛮は無意識に腰を銀次へと擦りつける仕草をしだす。 「あ、あぁ‥んっ。な、なんか‥へ、変‥だ。ぎ‥んじィ‥」 「気持ちいい? 蛮ちゃん」 「ん、いいっ‥やぁ‥あっ、あっ、やっ、イくっ」 ぐっと蛮の躯に力がこもり、銀次へと軽く擦りつけられていた蛮のペニスからは勢い良く白濁の精がとんだ。 「え? 後ろの刺激だけでイっちゃったの?」 (嘘っ、初めてで後ろだけでイけるの?) ぼんやりしたままの蛮に丸く見開かれた目を向けて銀次は驚いていた。 普通、簡単に後ろだけの刺激ではイけない。 かなり馴らされなければ無理だ。 が、実際、蛮は初めてにも係わらず後ろだけでイってしまった。 それだけ蛮が感じ易く敏感だという事なのだろう。 「蛮ちゃん、ごめん。オレ、も、我慢できない」 銀次はそう叫ぶように言うと自身の猛りを蛮の後ろ口へと擦りつけた。 今までの愛撫で十分解されている口は柔らかく銀次の猛りを迎えいれる。 内部の熱さに当てられたように、銀次は奥まで一息に突き進んだ。 「ヒッ‥ア、やぁ‥‥んんっ」 馴染ませるようにじっとしていれば刺激を欲しがる蛮の方が焦れて腰を揺らしだした。 蛮が押し付けてくる動きに合わせるように銀次は律動を開始した。 ゆっくりと引き、速い動きで最奥を突く。 「はっ‥‥んんっ‥‥ア、アァ‥ん」 蛮は背をのけぞらして喘いだ。 「気持ちイイ? 蛮ちゃん、オレも気持ち良すぎ」 銀次の律動は段々激しいモノになって、蛮の喘ぎは悲鳴に近いものがまざりだした。 「ア、‥ひっ‥‥や、ま、まっ‥て」 「ごめん、止められない」 蛮は身をよじり、両手を突っ張って銀次を押し退けようとする。が、銀次が蛮の腰をしっかり掴んでいるためもがくだけに終わってしまった。 「やっ、はっ‥ア、‥‥は、ひっ‥」 途切れがちな声は感じてあげているのか、悲鳴なのか。 ぽろぽろと零れる涙が蛮の頬を濡らし、シーツに吸い込まれてゆく。 銀次の動きが達する為のモノに変わり、奥まで突き上げられて蛮は悲鳴をあげ、啜り啼く。 一際大きく突き上げたところで銀次が達して、その精を蛮の中に注ぎ込んだ。 銀次の熱さに煽られたように、少し遅れて蛮も少量の精を零した。 「はぁ‥。蛮ちゃん、大丈夫?」 返らない返事に怪訝に思って覗き込めば、蛮は荒い息のまま、熟睡してしまっている様だった。 「ハードすぎたかな? 蛮ちゃん初めてだったんだよね」 そろりと身を引いて蛮の中から銀次自身を抜いた。その刺激にも、蛮は意識のないままぴくりと身を震わせた。 「ほんと、敏感なんだ。可愛い」 銀次は顔がにやけるのを止められなかった。 もし今蛮が目を覚まして銀次の顔を見たとしたら、さっきまでの彼とのギャップに「詐欺だ」とでも叫んだかもしれない。 が、実際には蛮は銀次が後始末をして風呂で身体を洗ってやっても目を覚ます事は無かった。 タオルで丁寧に拭いてバスローブを羽織らせ、再びベッドに寝かせた。 やはり、蛮は目を覚まさず、荒かった呼吸も穏やかなモノに変わっていた。 それを見て銀次はほっと息を吐いた。 寝苦しいようだったら、明日が尚の事恐ろしくなる。 「まぁ確実に明日、殴られるんだろうけど」 何とかなるさ、と気楽に呟き銀次も蛮の隣に横になる。 じっと様子を伺ってから、そろそろと腕を伸ばした。 蛮の細い肩に手をかけ自分の方へと引き寄せる。 あっさりと蛮は銀次の胸に寄り添って、温和しく納まった。 にへらっと笑み、蛮をしっかり抱き締めて銀次も夢の中に旅だった。
お互いを愛おしいと、漸く理解し始めた二人は、初めの一歩を踏み出した。
あとがき
初めの一歩がいきなりエロかい! と言う突っ込みは棚の上にあげてください。アーリー時代の銀蛮です。 携帯でいきなり打ち込んでいたものなので文章がおかしいところもありますが、その辺は目を瞑っていただけるとありがたいです。 Hは温いですかね? でも初めて同士ならこんなもんかな〜と。 10月のオンリーイベントの日まではフリーにします。お持ち帰り&サイトUP報告は任意で。(拍手でもメルフォでも可) 焔
フリー期間は終了しました。お持ち帰りした皆様、ありがとうございます。
|