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1231日大晦日の夜から、新年を迎える為にと称した宴会がHONKY TONKで開かれた。

参加者はめいめい何かを持ち寄る事になってはいたのだが、相変らず金欠の二人は、HONKY TONKの大掃除をする事で免除してもらっていた。

尤も他の部屋も全て掃除すれば、冬の間の宿として使う許可もくれるということだったので、張り切って掃除した。更に、宴会用の料理も作れば、ツケも減らしてくれるとあって、本日二人は非常に働いていた。

その所為か、宴会がはじまったばかりの頃から、妙にハイテンションで、他の参加者の首をひねらせもした。しかし、銀次はいつもこんな感じだよな、とあっさり納得されてしまったりしたのだが。


宴会はおおいに盛り上がり、新年の瞬間へのカウントダウンも皆で叫んだ。

時計の針の秒針が0を指した瞬間、皆でグラスをかかげ、おめでとうと皆で叫びあった。

追加の酒がまわり、大騒ぎに拍車がかかったのだった。

だが、流石に1時を過ぎる頃には潰れる者も出てくるものだ。最初に抜けたのは当たり前だろう、レナだった。次いで夏実だった。二人は少し奥のボックス席に寝かされている。そこで、仲良く夢の中だ。

店内はエアコンが効いていて、かなり暖かい。が、何かあって風邪をひかれても困る。波児は二人に毛布を掛けてやった。

「ほら、そろそろつぶれた奴が出てきたから、そろそろお開きにしないか?」

「ん~、まだ、飲みたんないわよぉ」

「お~、さんせ~でっせ~」

「お~」

「程ほどにしとけよ?」

肩をすくめつつも、波児も中に混ざって飲み始める辺り飲み足りないのは彼もなんだろう。


更に一時間が過ぎて、酔いも程よく手伝って、皆とはしゃいでいた銀次は、ふと違和感を感じた。

首をひねって考えるがそれが「何か」までは直ぐには気付かなかった。

「これおいしいよ、蛮ちゃん!」

隣に座る蛮へと笑顔で声をかけて、初めて違和感の原因に気が付いたのだった。

「蛮…ちゃん?」

蛮が静かなのだ。実際夏実ちゃん達がつぶれてしまうまでは騒がしかった筈だ。銀次も一緒に騒いでいたのだから間違いが無い。だが、今は全く無言で大人しく座っている。

(機嫌が、悪くなったのかな?)

気分屋な所のある蛮は、拗ねると途端に無言になる。

だから、様子を伺うように、静かな蛮をそろ~っと下から覗き込む。

と、虚ろな瞳を眠そうに瞬いている蛮の顔が見えた。

「? 銀次、蛮がどうかしたのか?」

「そういやー、ヘビ野郎は静かだな」

「そう言えばそうですね。先程までは銀次さんと一緒に騒いでましたよね?」

「なになに~? ひょっとして、蛮君、ご機嫌ななめ~?」

銀次の様子に気が付いた銘々が口々に声をかけてきたが、銀次は、「しーっ!」と指を口に当てて皆を制した。

「眠りそうなんだ。まだ目は開けてたけど、かなりぼんやりしてたから…」

そっと小声で告げる。

皆の視線は自然蛮へと集中したが、当の本人はその視線に気付いた様子はない。普段の気配に聡い様子など、今の蛮からは微塵も感じられなかった。

そんな珍しさに、皆はしんと押し黙ったまま、息を殺すようにして蛮を見つめている。

蛮は、時折船を漕ぎ出していた。つぶれてしまうのは時間の問題だろう。

「珍しい…、ですね」

「確かに、こう大人しくしてりゃあ、年相応に見えるもんだなぁ…」

「えろう、可愛らしでんなぁ」

ゆらゆらと揺れる身体は酷く頼りない。眠ってしまうまでのカウントダウンのようにも見えてしまって、銀次は苦笑を浮かべた。

「ほら銀次。毛布だ」

「あ、ありがとう、波児さん」

波児が毛布を出してきて銀次に渡すと同時に蛮の身体がぐらり、と大きく揺れ……

そのままポスンと銀次の膝の上に乗り上げるように倒れこんでしまった。くうくうと穏やかな寝息を立てていてすっかり寝入ってしまっているようだ。乗り上げたままでは寝苦しいだろうと、位置を直して上を向かせてやる。それでも起きずに安心しきって眠っている。

「珍しいですねぇ、本当に」

「疲れてたんだよ、本当は。無理して起きてたんだから…」

銀次は毛布を広げて蛮の身体を包んだ。

「ん~~」

もぞもぞ身じろぎ反対側に向いて寝返ると、銀次に擦り寄った。


くすっ くすくすっ


銀次がくすくすと声を押し殺して笑い出した。寝返りを打ったときに伸ばされた蛮の手は、銀次の服の裾をしっかりと握り締めていた。

「ネコみてぇな奴だな」

士度が苦笑しながら呟いた。

「いやいや、ネコなんて可愛いもんじゃないでしょ?」

士度の呟きを聞き止めた笑師が指を立てた。

「どっちかってえと、豹って感じだとおもいまっせ? あれも起きてりゃ恐ろしいでっしゃろが、寝てればネコと何らかわりゃせんでっしゃろ? な、にてっまっしゃろ?」

つい皆は頷いてしまっていた。

「まあ、膝枕してもらって上に……。甘えん坊なんだぁ、蛮君って~。意外~」

「基本的には俺様思考なのよね。コイツってば。あれって裏返せば甘えん坊じゃない? 思い通りにならないと癇癪おこすのよ」

ヘヴンと卑弥呼がひそひそと囁きあって、ちらりと銀次を見れば、しっかりと聞えてしまっているらしい彼は

ゆでたように赤くなっていた。



他人がいるところでは、安心して眠ったりする事は出来なかった。

目は閉じていても、ずっと神経を尖らせていた。

その所為でか、彼は実際の年よりずっと大人びていた。


それが、今はこんなに安心して寛いでいる。皆が居るというのにだ。


銀次には、それがとても嬉しかった。

仮令、疲れていても、イヤ、そんなときだからこそなのか、キンと張り詰めた空気を纏っていた彼。

今は、子猫のように甘え擦り寄って眠っている。


「掃除とか、1人で頑張っていたからな」

「うん…。俺、あんまり役に立ってなかったし。この料理も半分は蛮ちゃんが作ってたし…」

夏実やレナ、波児もいたとはいえ、店の大掃除は殆ど蛮が1人でやっていた。銀次は食器の片付けと、足らなくなった洗剤とかの買出しなどの荷物持ちが大半で。

「まぁ蛮がつぶれた事だし、そろそろお開きにしないか?」

時間は既に2時を過ぎている。

「帰る人は気を付けて帰ってくれよ。止まっていくんなら毛布を出すよ」

「結構騒いだし、飲んだしな。今日は帰って改めて、まどかと挨拶に来るよ。皆にも会いたがっていたからな。じゃあな」

「あ~、士度はん! まってぇな。ワイも帰りまっせ。ほら、十兵衛はん、雨流はん、行きまっせ」

「あ、ああ」

「了解した。マスター、邪魔をした。では、花月、また改めて」

「うん。こっちから行くよ。マクベスや朔羅にも会いたいからね。おやすみ」


士度が立ち上がったことを切っ掛けにばたばたと皆が帰り支度をはじめた。

「さあて、私たちも帰りましょうか。銀ちゃん。蛮君にごちそうさまって伝えてね。ついでに寝顔、可愛かったわよってね。しっかり写真とっちゃったから~v」

「せいぜい二日酔いにならないことを祈ってあげるわ。じゃ、おやすみ」

ヘヴンと卑弥呼も帰り支度をしている。卑弥呼はバイクで来ているのでアルコール類は一切口にしていなかった。ヘヴンは卑弥呼に送ってもらうという話がついているらしかった。

その、二人も出て行くと、店内に残ったのは波児と銀次。そして、つぶれて眠っている3人。

「じゃ、俺も寝る。銀次は部屋の方に行くか?」

「女の子達だけ此処じゃ心配だから、このまま此処で寝ちゃいます」

「そうか、んじゃ、毛布とって来てやる。それじゃ、取りには行けないだろう?」

蛮がしっかりと掴んだままの服を指され、はいそうですね、と素直に頷いた。

奥から毛布を持って出てきた波児が銀次の背中からかけてやった。

「じゃ、お休み」

「おやすみなさい」

戸締りをして灯りを落とした店内には、穏やかな寝息だけが静かに満たしている。



あけましておめでとう。今年もよろしくね、蛮ちゃん



銀次は眠る蛮の頬にキスをして、静かに目を閉じた。







コメント:初の拍手お礼SSでした。2月にUPしたのに新年の話。黒猫じゃなくて黒豹ってとこにお笑いが‥‥。おっきく成ったのよ。猫よりは‥‥。何はともあれ、此処まで読んだ方、ありがとうございます。(焔)



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