とんだ迷惑





ピロロロリーン

蛮の持つ携帯がメールの着信を知らせた。

ふと持ち上げて画面を見るとメールを見ることなく蛮は携帯を閉じた。

「?」

銀次が首を傾げる先でさらに、ピロロロリーンと携帯が鳴った。蛮の行動はさっきと全く同じ。

銀次がそんな蛮の行動を目にするのは、今日だけで朝からすでに10回を越えている。

「蛮ちゃん、最近、メール多いよね。何のメール?」

「くだらねえ、メール」

見るか? と差し出された携帯を受け取り、銀次はメールを開いた。

中にはごみと付けられたフォルダーがあり、未読のメールは全てその中のようだ。

フォルダーを開けば、中には知らない人達の名前が連なっていた。

「この人達って、知り合い?」

「中読めば、わかるって」

蛮に促され、銀次は一番最近に来たメールを一件、あけてみた。


─────蛮様。即日振り込めるから心配はいらないよ。それなら返事をくれるだろ?

だって、それだけで600万が君のものになるんだ。だから…

続きを読む場合と返信はこちら▼

http://%£&*¢/mail/%#+&/mail/!#-*%


()ゆうき りんた さん

年齢:25歳

地域:新宿

職業:実業家

時間:いつでも

 ┗【現在ON LINE!!


「何、これ?」

「みたまんま。迷惑メール」

「600万くれるって…」

「んな訳ねえだろ」

蛮は素っ気ない。

銀次は更にメールを開き中を読んだ。

「うわぁ、この人、ガンで余命1〜2年だって。返信してあげないと可哀想じゃない」

「必要ねえよ。年、見たか?」

「えっと…79歳」

「そんなに年くってたらガンの進行はおせぇんだよ。意外に長生きするんだぜ。それに、そんな末期ガンの人間が何で携帯でメールや電話が出来るんだよ?」

「できないの?」

「…身内が居ないんなら、入院してるだろ?」

「あ、病院は携帯使っちゃダメなんだっけ…ってことは、これって…」

「まあ、ほぼデタラメな嘘だな」

納得した返事を返しながらも、銀次は更にメールを読んだ。

「これは? 一万くれるって」

「…、それ、下まで全部見たか? 恐らく幾らか入金しろって書いてあるんじゃねえ?」

「…あ、ホントだ。三千円入金したら一万円分のポイントが貰えるんだって…」

「こっちに少しでも金をつぎ込ませたいんだよ。だから手を変え品を変えてメールがくる。だから迷惑なんだよ」

「ふーん。でも何でこんなのがくるの?」

「あ、それはだな。客の呼び込みに占いとかを出してんだよ。フリーできたソイツに夏実が引っかかって、だな。そのまま登録しちまったんだよ。だから、名前も『蛮』だろ。ただし性別は女だがな」

「これ、一番下に【18禁】って……める愛?」

「まあ、よくある出逢い系サイトだ。占いの案内には載ってねえんだが、スポンサーサイトへの登録が無料の条件なんだよ」

蛮の説明に銀次は首を傾げる。

「よく分かんないんだけど」

「女の子は大抵占いとか好きだろう? それでスポンサーサイトの出逢い系サイトに登録させるんだよ。そうすると、今まで銀次が見てたみたいなメールが大量に送られてくる。返信するのも、メールの文を全部見るのもポイントがいる。で、ポイントは金を払わなきゃ手にはいらねえってわけ」

蛮はシートに背を預けて伸びをする。

「それってまるで詐欺じゃん」

「だから、返信とかせずにほかっておけって。あんまりウザけりゃメルアド変えるしかねえんだが」

「この携帯って…仕事用のだよね?」

「だからあんまりメルアド変えたくねえんだ」

「……すごーく、嫌なんだけど」

「ハイエナみたいなもんかもな」

「そうじゃなくって…蛮ちゃんがそういう対象だって見られる事が…さ」

「だから、こんなモン気にすんなって」

銀次は首を左右に振った。

「そんなの、無理。だって、マンションに住んで生活費も全部持つから、月に1〜2会逢ってくれって、こんな内容のメール、これじゃまるっきり愛人になれって言ってるもんじゃない!」

「迷惑メールにまでヤキモチかよ」

「そうだよ。ヤキモチ焼きだもん」

「まあ、悪い気はしねぇな」

蛮は機嫌良くそう呟くと、銀次に素早くキスをした。そうして、銀次の手から携帯を奪うと何やら操作しだした。

直ぐにメール着信音が鳴るが、蛮は今度はメールを操作しだした。

誰かは銀次には判らなかったが、メールのやりとりをしているらしい。

しばらくするとメールの着信音が立て続けて鳴り、蛮はそれを銀次に見せた。

着信のメールは見知った仲間達からのモノだった。

内容やタイトルには了解という文字がみえた。

「これって?」

「メルアド変えたんだよ。それをメールした返事」

銀次は一瞬キョトンとした顔をしたが、直ぐに笑顔になると、蛮に抱きついた。

「蛮ちゃん、だーい好き」

抱きつく銀次を受けとめて蛮はニヤリと笑った。


こんな風にヤキモチを焼かれるのが嬉しくて、夏実にワザとこの携帯で登録してもらったのだから。

(なかなか気付かなくて、ちょっと焦ったけどよ)

目的が達せられた事に、蛮は満足げな笑顔を浮かべ、銀次の腕の中に収まっていたのだった。




終わり




銀ちゃん大好きな蛮ちゃんです。

ヤキモチを焼かれて喜んでます。微黒(())

因みに、迷惑メールの内容は、某サイトからの迷惑メールの内容を参考にしました。()


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