おばあちゃんの知恵?
ヒック、ヒック、ヒック
カウンターに頬杖をついて、ふてくされた表情でそっぽを向いている。
それでも時折その肩がぴくり、ぴくりと震えている。
ヒック、ヒック、ヒック
喉からはひきつった音。
「ば、蛮ちゃん‥‥。大丈夫?」
「ヒック‥‥、だいじょック‥ぶかって‥‥、ックこのじょック‥、状態ック‥‥を見てッ‥そうッ…、そういッ、言う事、言うか? ヒック‥‥」
蛮にじろりと睨まれて銀次は『そうだよねぇ』と口の中で呟いた。
蛮は、本日の朝からずっとシヤックリに悩まされているのだった。
それからすでに4時間がたとうとしている。
シヤックリは一向に止まる気配を見せずに、蛮は肩を震わせて、喉の奥から押し殺したようなシヤックリをこぼしていた。
それから更に2時間ほどが過ぎてバイトの夏実が店に顔をだした。
「あ、私、良い治し方知ってますヨ」
蛮の状態の事情を聞いた彼女はぽんと手を打ち合わせ、そんな事を言い出した。
その頃には蛮はシヤックリで疲れてカウンターに懐いてしまうほどで、銀次は心配そうに彼を見ているしか手は無くて。
「も‥‥、ック‥何ッ‥でも‥いいッ‥から‥誰っ‥誰か‥ヒック‥なんッとか‥して‥ヒック‥くれ‥ック‥よ」
ぐったりとそう応える蛮に夏実はにこやかな笑いを見せた。
そうして、彼の背中をポンポンと二度叩く。
「蛮さん。豆腐って、何で作られてますか?」
「へ? ック‥ダイっ‥ダイズ‥だろ?‥ヒック‥」
「じゃあ、茄子の色は?」
「ん〜? 茄子のっ‥色? ‥ヒック‥茄子紺‥とか?」
「他には?」
「んじゃ、紫。‥後、藍色にも見えるな」
そう答えて、それが何の関係があるんだと夏実を見る。
「どうですか?」
「へ? 何が?」
彼女にニッコリと微笑まれ、蛮はきょとんとした顔を向けた。
「ば、蛮ちゃん‥、シヤックリが止まってるよ」
「あ? ‥ああ、ホントだ」
なんで?
と夏実に目を向ければ、彼女はにこにこと笑顔だ。
「止まって良かったです。前に近所のおばあちゃんに教えてもらったんです。シヤックリが止まらなくなったら後ろから背中を二度叩いて豆腐は何で作られているか聞いてごらんって。それでも止まらなかったら茄子の色を聞きなさいって。それで本当に止まるから不思議ですよね」
「民間伝承のおまじないってヤツか。意外に効くもんなんだな」
カウンターの中で波児が呟き、蛮がちらりと睨む。
蛮にしてみれば複雑な心境だろう。
「あとですね、キスするとシヤックリはうつるって言ってました」
爆弾発言だ。
蛮はカウンターに突っ伏し、波児は手に持った新聞を破いた。
そんな中で銀次一人が目をキラキラさせている。
「へー、うつるんだ。もっと早く知りたかったな」
「風邪じゃあるまいし、うつるわけねぇだろ」
その蛮の発言は銀次の耳には届いていないようだ。
銀次は次に蛮がシヤックリをしだしたら、絶対にキスしよう!と自分に誓いを立てていた。
それが、正しく効果のあるおまじないだったのかは‥‥‥
神のみぞ知る、といったところか。
それはまた後日の話である。
終り
コメント:珍しく変な話です。いや、会社でお菓子摘んでいたら思いついたもので。携帯にメモして自分のPCにメール添付して編集し直しました。後日談も勿論書きますよ。短い話ですけどね。 此処まで読んでいただいてありがとうございます。焔
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