それでも、 世界は… (蛮ヴァージョン)
暗い、暗い場所にただ、存在(い)ただけだった。 上も、下もなく、右も、左も、無かった。 当然、、自分の身体も無くて‥‥ 何故か、それが無性に哀しかった。 (ああ、これで俺は消えちまったんだ‥‥‥) もしくは‥‥‥、ただ、死んだのか?
平行世界の永遠の命題のようだ。 生きている、俺。死んでいる、俺。存在すら消滅した、俺。生まれてこなかった、俺。 そして、今ここにいる、俺。
どれも100%では有り得なく、50%以下にもなり得ない。 生きている事と、死んでいるという事は、同時に存在する事はない。 外から全く見えない箱の中のネコははたして、生きているのか? 死んでいるのか? そもそも、その”ネコ”は存在しているのか? これは、今の人類には、証明する事は出来ない命題だろう。 人間(ひと)は、視覚でのみ、世界を捉え、形にしているのだから。
それで‥‥‥、本当に良いのですか? 声が、聞えた。消えてしまった筈の、『奴』の声。 それと同時に胸に痛みが、突き刺さる。 イイも悪いも無い。それしか、俺に選択する道は無い。これが正しい選択のはずなのだ。 魔物の俺が、銀次を死なせてから作る世界に、幸せなんて、きっと無い。 「くそっ‥‥‥バ‥ネ‥」 人の決心に穴、空けるなよ。 優しい、奴だから‥‥、だから、奴は光溢れる世界を目指すだろう。大きくこの世界を変えようとは、しないだろう。アイツは、そういう『奴』だから。 俺は、いつ自分が消えてしまっても良い様に、生きてきた。 それには、相手に憎まれる事が一番だと知った。 好きになった、気に入っていた、そういう奴らから、憎まれる。それはある意味とても辛かった。 けれど‥‥‥‥ どうせいつか、記憶にすら残らずに消えてしまう俺だから、だったら、こんな一瞬な辛さなんて、なんでもない。
──だったら‥‥‥
暗い‥‥‥ 暗い‥‥‥ 暗‥‥‥い‥‥‥
俺は‥‥‥‥
死んだのか?
存在が、消えてしまう前に、死んだとしたら‥‥ 俺という存在は、どうなるのだろうか?
シューレディンガーのネコだな‥‥‥ まるで。
寒い‥‥‥‥‥ 此処は‥‥‥ とても‥‥‥ 寒い‥‥ 寒い‥‥、と、そう呟いた途端に、ぽわんとした温もりに包まれる。 ああ‥‥‥‥ あったかい‥‥‥ 安心できる、その暖かな温もりの中で、丸くなって眠る。
大丈夫だよ…。何も、何も心配する事は無いよ…。
そう聞えた…… 気がした。
気付けば俺はビルの屋上に立っていた。 あれだけあった体中の傷には全て手当てが済んだ状態で、丁寧に白い包帯が巻かれている。 背を振り返れば、壁に大きくイーチンマークと呼ばれる、陰と陽で世界をあらわしたマークが描かれていた。
(…そうかよ、此処が…これから始まるこの世界での無限城なのか) バビロンシティへの通路の無い、至って『普通』の世界。 ふと、何かの気配を感じて、俺は振り返った。大きく、温かな…、まるで春の日差しのような…気配。 これは…… 間違いようも無い……
金色の光が集まって、ヒトガタを形成して行く。データの羅列が流れて行く。
そして、そこに「天野銀次」があらわれた。 がばりと跳ね起きた銀次を、声もかけることも出来ずにただ見ていた。 いや、正しくは、かけられなかった。 この「銀次」は俺を知っている、俺の知っている『天野銀次』なのだろうか?
「蛮ちゃん‥‥、オレ‥‥」 「ンだよ?」 銀次の呟きを耳に、俺はぶっきらぼうに答えた。本当は嬉しいのに。 「蛮‥ちゃん?」慌てて振り向きやがる。 「あ?」 「蛮ちゃんが生きてる!」「第一声がそれかよ!」 いつも通り、殴り飛ばしてやった。 「‥‥じゃああれは、夢だったのかな?」 「夢‥‥?」 楽しそうに、『夢』の話を語る銀次。それは、夢じゃなく『現実』っていう世界じゃねぇのか。 「蛮ちゃんのお母さんにも逢ったんだよ? 蛮ちゃんに逢いたがってたよ? だからオレ言ったんだ『逢いたいなら逢いにいけばいいのに』って!」 「それも夢の話なんだろ?」 「あ‥‥、うん‥‥」しゅんと項垂れてしまう。 けど、銀次が『逢いにいけばいい』と伝えたって言うんなら、きっと逢えるんだろうな。 「でも‥逢えればやっぱ嬉しいんだろうな。たとえそれが夢だったとしてもよ」 だから、ほんのちょっとだけ本心を素直に出すことにした。
「さァ‥‥、帰るか───!!」
ああ、全てが元通りって訳じゃないが‥‥‥
それでも── それでも、世界は此処に息づいている。
これも、確かな現実なんだろう。
コメント;拍手ログ第3弾は大弾と同じ最終回辺りのネタバレ妄想話です。こっちは残っていた蛮ちゃんからのお話でした。
|