それでも、  世界は…     (銀次ヴァージョン)




公園の陽だまりのベンチで、俯いて座っている女性がいた。長いスカートとリボンの飾りが少女めいていて、思った以上に相手を若く見せている。


「あ、あの…、貴方が…」

躊躇いながら、俺は彼女に声をかけた。どういう反応をするだろうか…。

彼女は、直ぐに顔を上げて、微笑んだのだった。





彼女と話したのはほんの4、5分だけだった。

でも、それで十分だ。

俺には、まだやらなきゃならないことが有るんだから。





赤屍さんと共に始めの場所に戻った。

「決められたのですね?」俺の顔を見て、彼は言う。

「うん、でも……、本当に、いいのかな?」

「私が口を挟むことでは無いので、とくにお答えは出来ません。が、貴方の考えている通りになさってよろしいと存じますよ。そう、おそらく向こうの世界の私でも、同様にお答えするでしょう」

「そっか…。赤屍さんって、不思議だね。向こうの事も、こっちの事もどうしてそんなに知ってるの?」

「おそらく、ですが。これがこの世界『バビロンシティ』で得た、私の能力なのでしょう。ですから、この世界自体も『誰か』の手によって作られた、ただのデータなのかもしれませんね」

「ふ〜ん。わかったような、余計にわかんなくなったような…」

アハハっと笑いながら正直に言えば赤屍さんもやさしい微笑をうかべた。

「向こうの世界で、覚えてらっしゃったら、美堂君にでも、お聞きなさい」

「え…、ば、蛮ちゃん、に?」

「そうです」

「……、うん、わかった」


そう答えて、俺は目を閉じた。

──光が消えて、闇が訪れる。聞えていた音も、何もかもが   消える


本当に何も無い、ただの『闇』




そこに小さな『光』が漂っていた。ぎゅっと小さくなって、消えてゆこうとしていた。

俺は、その『光』をそっと手で包んで捕らえた。

冷たく感じる、『光』

それは小さく震えていた。

──ああ、寒いんだね。寂しいんだね

「大丈夫だよ、何も…、心配する事無いよ」

安心させようと、そう語りかけた。

『光』は力強く瞬いて、俺の言葉に頷き返してくれたようだった。





ふと、目覚めると、目の前には空が広がっていた。

見上げた、綺麗な青空。とはいっても新宿の空だから、澄んだ綺麗な色じゃないとは思うんだけど。


むくりと身体をおこす。

きっと此処は作り直された、新しい世界だ。だとしたら………

世界は前のまま続くと願った、俺の所為で多分…、

彼は、死んでいるのだろう…

あの、小さな『光』  あれは、あれが、おそらく…………


「蛮ちゃん‥‥、オレ‥‥」

「ンだよ?」

呟きがもれたのは、殆ど無意識だった。だから、返事があるなんて全く思っていなかった。

「蛮‥ちゃん?」慌てて振り向く。

「あ?」  そこに居たのは、いつも通りの蛮ちゃんで‥

「蛮ちゃんが生きてる!」「第一声がそれかよ!」

殴られるのも、いつも通り。

「‥‥じゃああれは、夢だったのかな?」

「夢‥‥?」



今まで見てきた事を話す、俺。

夢かもしれないんだけど…、何か、話してあげなきゃいけないって気がするんだよね。

「蛮ちゃんのお母さんにも逢ったんだよ? 蛮ちゃんに逢いたがってたよ? だからオレ言ったんだ『逢いたいなら逢いにいけばいいのに』って!」

「それも夢の話なんだろ?」

「あ‥‥、うん‥‥」余計なことだったかなぁ。

しゅんと項垂れて蛮ちゃんを伺うと、彼はそっぽを向いていた。

「でも‥逢えればやっぱ嬉しいんだろうな。たとえそれが夢だったとしてもよ」

あ、照れてるんだ。わかっちゃうもんね。

「うん」

俺は笑って蛮ちゃんを追いかけた。



この世界が、作られたものだとしても。

ただのデータの羅列だったとしても。

その中で、俺たちは確かに生きている。

この気持ちは本物で、ただのデータなんかじゃあり得ない。


だから、そんな事はどうだっていい。


此処は、この世界は、俺たちの生きる世界。

美しくても、汚くても、苦しくっても、寂しくても

それでも、世界は、輝いている、


俺の大事な(恋人って言うと照れた蛮ちゃんに殴られちゃうから)唯一の人と共に、

俺が選んだ、ありのままの世界で、

これからも生きて行く。




ありがとう。俺を、この世界に産んでくれて。大事な人たちをくれて。


──お母さん




コメント;拍手ログ第2弾は最終回辺りのネタバレ妄想話です。こんな感じかな〜って焔の偏見です。


もどる