ひらりひらりと風に遊ばれ、花びらが舞い落ちる。
さくらいろ
人気の殆ど無い校外の公園。その外れにある大きな桜の木の下で、GBの2人はのんびり寛いでいた。
正確には、寛いでいるのは蛮だ。
寝転び、気持ち良さそうにすーすーと寝息を立てている。
着ていたコートを脱いで丸め枕にしているが、それだけ陽射しが暖かい日なのだ。
眠る蛮の上にひらひらと花びらが降り注ぐ。銀次はそれを膝を抱えて飽きずに眺めているのだった。
4月に入ってから、何故か奪還の仕事が相次いで入ってきた。
大きなものや小さなもの取り混ぜて。半ばホンキートンクのマスターである王波児にツケを返せといわれ続けた所為もあり、全部の仕事を受けて、漸く昨日、その全てが片付いたところだった。
気が付けば、新宿の公園の桜は皆葉桜になってしまっていた。
「お花見できなかったよ〜」
「………。しかたねぇな。明日、朝から出かけるぞ」
そう言われ、着いたのが此処だった。
満開の八重桜。重たそうな花が雪洞のように垂れ下がって今が満開になって咲いている。
鮮やかなピンクの花が、普段見る桜の花より豪華に見えるから不思議だ。
葉と花が同時に見られる八重桜は普通の桜より開花時期が遅い。だから他の花が散ってしまった後でも、まだ盛りの花が見られる。
「八重桜だが、こいつは食用になる花だ。夕方までゆっくり見とけ」
そう言って蛮は横になってしまった。
昨日までの奪還の仕事の運転や、なにやらで殆ど眠っていなかったから仕方が無いだろう。
「夕方までって?」
そう思って初めて今日が19日だと気が付いた。
「オレの誕生日…」
(そっか、だから蛮ちゃんは此処に連れてきてくれたんだ)
きっと今頃ホンキートンクではパーティの準備をしている事だろう。銀次を驚かそうとして。
そう思ったら暖かな気持ちになった。
蛮の黒いセーターに桜の花びらのピンクが模様のように散っている。
「似合うね」
蛮の白い肌を引き立てる、黒髪、黒い服。それに鮮やかなコントラストを引き出すようにピンクの花が色を添えている。
眠る蛮は熟睡しているのか起きる様子は無い。眼鏡が外されて横に置かれている事からも、すぐに起きたりする可能性は低いだろう。
銀次はこの際桜の花見より…、と蛮の観察をする事にした。
ころりと隣に並んで寝そべると目の前は蛮の横顔だ。
じっと見れば長い睫毛が見えた。
「睫毛、長いね。量も多いし、色も髪と同じで漆黒で」
緩やかなカーブを見せているソレは、閉じていても蛮の瞳を際立たせている。
穏やかな寝息を零す口はほんのりと開かれている。
ひらりひらりと花びら。
蛮の頬や唇が同じ色に染まってみえる。
このまま、ここに居たら、蛮も自分も、桜の色に染まってしまいそう。
そんな気にさせるほど、花びらが舞う。
なのに頭上には満開な桜の花が覆っている。
じっと蛮を見ていたら、我慢できなくなって銀次は身体を起こした。ペタンと正座した形になったのだが、蛮の様子は変わらない。
じりじりとにじり寄ると、上から覗き込む。
すーすーと穏やかな寝息は変わらない。
銀次はそっと蛮に口付けた。
「ん〜、良く寝た。銀次、花は堪能できたか?」
むくりと身体を起こし、伸びをしながらそう聞けば、目の前の銀次は穏やかな笑みを浮かべていた。
「うん。いっぱい花見したよ」
「そか、退屈したか?」
「ううん。全然」
「そりゃ、良かった。んじゃ、帰るぞ」
「うん」
夕焼け色に染まりだした空。
それを背に満開の花は咲き誇っている。どんな色にも染まらない、さくらいろが鮮やかに映った。
おわり
すみません。逃げます!
本当は別の話を書いてました!出来なかったんで、途中まで書いて放置していた話の一部を変えて書きました。
書く予定だった話はまた別の機会に形を変えて乗せたいと思っています。(焔)
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