立食形式にセッティングされたテーブルの上に何があるのか、見ようとして蛮は精一杯背伸びした。 しかし、小さな体ではほとんど見ることはできなくて、唸った。 「蛇、何してるんだ?」 「猿回し! 料理が何があるのか見ようと思ったんだけど…、背が届かなくって、うわあぁ」 急に持ち上げられて蛮は慌てた。 「こら、暴れるなって。これなら見えるだろ」 「え? あ…、さ、サンキュー…」 「美堂君、何が欲しいんです? 取ってあげますよ」 「糸巻き。えっと…、あれとあれ、あとそっちの」 「はい、コレとコレとコレですね。はいどうぞ」 蛮が指差した料理を取り皿に盛り付け、皿を差し出した。 士度は下に降ろしてから、フォークをとり差し出す。 「サンキュー、な」 にっこり笑顔で受け取ると、蛮は早速皿の上の料理を頬張った。 「今の美堂君は子供で小さいのだから、できないことは皆の手を借りて、甘えてもいいんですよ」 「え…、でも…。それは…」 蛮が躊躇うと花月は笑顔で「それでいいんですよ」ときっぱりと言い切った。 蛮は何とかえせばいいのか、わからずに黙ったまま見つめかえすだけ。 「あら、蛮君。料理は取ってもらったのね。何か飲む?」 「オレンジジュースなら、ここにありますよ。はいどうぞ」 夏実がジュースの入った紙コップを差し出した。 「あ…、サンキュー…」 「どういたしまして。何か取れないものとかあったら遠慮しないで言って下さいね」 にっこり笑って夏実は別のテーブルへと行ってしまった。 「なんで…、皆、手を貸してくれるんだ? 俺は子供じゃ無いぞ」 「なんでって、今は子供じゃないの。蛮君ってば、理屈こねすぎよ」 ちょこんとヘブンに指で鼻先をつつかれ、蛮は赤くなった。 「だって、自分でやらなきゃならないって…ずっと、そういうモンだって…」 「ああ、それでか。お前が他人に頼らねぇのって」 「頼り方を知らなかったんですね」 士度と花月は納得したようにつぶやいた。 「聞きましたけど、蛮さんは今子供だとか。その姿になったのは、どうしてですか?」 いつの間にか近くにきていたまどかにそう訊かれ、蛮は口ごもる。 「こ、これは…その…マリーアの奴が…その、いたずら、で…」 「ああ、ではマリーアさんは、あなたに甘えるって事を知って欲しかったのかもしれませんね」 まどかは得心がいったように手を合わせた。 「甘える? なんで嬢ちゃんは、そう思うんだ?」 「だって、私は小さい頃から、他人に手伝ってもらわなければ、何も出来ませんでしたから…。蛮さんと逆ですね」 蛮は、ちょっと黙って考えてみた。 見えないから、何をやるにも誰かに手伝ってもらわなければならない、子供だった当時にはそんな状況なんて想像も出来なかっただろう。 生き残る為にはありとあらゆる手を使って、自分だけの力で生きてきた。 そうじゃない生き方があるなんて、あの頃は思いもしなかった。 「どうかしましたか?」 黙ってしまった蛮にまどかは心配げな声をかけた。 「あ、なんでもない。何となくだけど…、マリーアがどうして子供にしたのか、分かったような気がする…」 「そうですか? どうせですから、楽しんじゃいましょう、ね?」 「おう。そうだよな」 子供の姿にされた事に不貞腐れていたけれど、この姿の、今ならわがまま言って頼っても許されるらしい。 本当に子供の頃じゃ出来なかったけど、今ならできるかもしれない。 蛮が体験できなかった、子供として甘える事が…。
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