いたずら万歳 7


波児の声を合図にして、夏実とレナが紙と鉛筆を皆に配った。

当然、銀次にも渡された。

「はい、マスターもどうぞです」

店内はしんと静まり返った。

鉛筆が紙を擦る、独特の音だけが静寂に満ちた。

しばらくすると夏実が中を見えないようにした箱を持ってきた。

「では、廻るので書き終わった人はこの箱の中にいれて下さい。紙に書くのは1位から5位までですよ! では」

店内を歩く夏実の元に投票用紙が集まり、鉛筆はレナが回収した。

「銀ちゃんで最後ですね」

「ありがとう。動けないからね」

「起きちゃいますもんね」

夏実は鮮やかに笑った。



「では、レナちゃんと集計してきます。少々お待ちくださいね」

2人はそれぞれの荷物を持ったまま、店の奥に消えた。

店内の一同はそれを見送り、順位予想に会話の花を咲かせたのだった。





「はーい、集計出来ました!」

「では、発表しまーす!」

第一位 美堂蛮 得点59

第二位 音羽まどか 得点33

第三位 天野銀次 得点32

第四位 水城夏実 筧朔羅 得点24

第六位 仙堂レナ ヘブン 得点23

第八位 風鳥院花月 得点16

第九位 マクベス 筧十兵衛 得点11

第十一位 工藤卑弥呼 得点9

第十二位 赤屍蔵人 鏡形而 夏木亜紋 得点5

第十五位 冬木士度 来栖柾木 得点4

第十七位 王波児 得点3

第十八位 笑師春樹 得点1

第十九位 雨流俊樹 得点0


得点は一位を5点として、あとは順に4点、3点、2点、1点で集計。


「結果は以上です」

「皆さん、意外に紳士なんですね」

「フェミニストばっかりなんだろうよ」

感心した感じの夏実に苦笑しつつ波児が呟く。

結果については、皆の反応はまちまちだ。

喜ぶ者、残念がる者、苦笑する者、呆れる者。最下位の俊樹などすでに部屋の隅に座り込んでどよーんとした空気をまといつけていた。

結果から見れば波児の言ったとおりなので否定の仕様がない。上位は殆どが女性陣が占めているのだから。

「まあ、ある意味、予想の範疇の結果かな。じゃあ、賞品の授与といこうか」

「はい。えっと、一位は蛮さんで、寝てしまってますから後日ですね。では、二位のまどかさん。受け取りは代理で士度さんにお願いします」

「え? ああ、解った」

士度がカウンターに近づくと、夏実とレナがそれぞれ綺麗にラッピングされた箱を差し出した。

「どうぞ、おめでとうございます」

2つ? ありがとう。ちゃんと受け取ったからな」

士度は照れくさそうにそうまどかに向かって告げた。

「三位の銀ちゃんも…、受け取りは後でですね」

そう夏実が笑顔で言えば、銀次も頷いて返した。

「じゃ、四位の先輩と、朔羅さん」

レナが夏実に箱を差し出す。

「ありがとうレナちゃん」

夏実が受け取ると、すぐにもう一つ持ってきて、にこやかな笑顔で朔羅へと差し出した。

「四位、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

艶やかな笑みを朔羅も返したのだった。






「実はね、蛮ちゃんを子供にしてくれって、オレがマリーアさんに頼んだんだ」

「そりゃ、なんでまた?」

順位で騒いでる皆を他所に、銀次は隣に座ってきた波児にポソリと呟いた。

聞きつけた数人が近くに来たが、大半は落ち込み騒ぐ笑師に気を取られているようだった。

「蛮ちゃんってさ、甘え方を知らないじゃない? 甘えた事も殆ど無かっただろうし…」

「そう、みたいですね。さっきもそんな事を言ってましたから」

「かづっちゃん。蛮ちゃんは小さい頃から一人で生きてこなきゃならなかったんだよ。そして、表には出て来れない。ずっと命を狙われてた。何でかまでは知らないけれど…」

銀次に甘えるようにしがみついたままの蛮に起きる様子はない。

「だから、かな。少しでも甘えて良いんだって事を知って欲しかったんだ」

「でも、甘えられないって状況だけなら、銀次さんだって同じだったんじゃないのでは?」

「ん? オレも無限城みたいなところで小さい頃から居たから?」

「ええ」

「でも、オレには守ってくれる大人達もいたし、友達だって沢山居たよ。誕生日だって祝ってもらってた」

銀次はそっと蛮の髪を撫でた。

「蛮ちゃんには、居なかったんだよずっと……」

「コイツが、祝い事が苦手なのはその所為か?」

「士度。そうかもね。半分は自分にはその機会が無いって諦めていたきもちの裏返しだったんじゃないのかな。皆は祝ってもらえるんだってことを、心のどこかでうらやましいって思う気持ちがあったんだと思う。それをずっと押し殺してきたから…、頑なになっちゃったんだろうとオレは思ってるんだ」

「じゃ、おもいっきり甘えられた今日は、ある意味そいつにとっちゃ、幸せの記憶になるのかもな」

士度の言葉に銀次は全開の笑顔を答えにした。

「でも、まさかお酒を飲んで酔っ払っちゃうとは思わなかったけどね」

「それも、良い思い出になるんじゃないかな。蛮にとっては」



何はともあれ、今回のハロウィンも、忘れがたい思い出の一つになった事だけは間違いのない事実だろう。






終わり









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やっと終わりました。いや〜、長くなった。皆の仮装話を書こうと思いついたのは良かったんだけど、話をどう展開しようかと2転3転したあげくこうなりましたとさ。(←他人事かよ)
何はともあれ、楽しんでいただけたら嬉しいです。ちなみに、蛮ちゃんにワインを渡した犯人は雨流です(笑)今回登場の男性陣が以外にも皆フェミニストで、女性には票を入れてるもので、集計したらまどかちゃんが2位という結果で…。焔もちょっと驚いたんですよね。
それでは、最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。