Wedding
 

〜二人の為に鐘は鳴る〜






「蛮ちゃ〜ん。何処?蛮ちゃ〜ん。」


さっきまで一緒にいたはずの愛しい恋人の名前を呼びながら、銀次はキョロキョロと辺りを見回した。

そして、ある場所で、思わず足を止めた。



真っ青な空。

真っ青な海。


それらが溶け合うように広がっているそこに、真っ白な教会が鮮やかに浮かぶように建っていた。まるで一枚の絵画のようだと、銀次はしみじみと思った。


「海が見える教会で結婚式をあげるのが夢だったなんて、ヘブンさんも女の子らしいトコあるんだなぁ。」


ヘブンが聞いていたら怒り出しそうな台詞を呟いて、銀次はクスっと笑った。



そう、さっきまでそこの教会では、ヘブンと来栖柾の結婚式が行われていたのだ。

元々ヘブンは美人ではあるが、ウェディングドレスに身を包んだ姿はまた格別の美しさがあった。

花嫁だけが着る事を許された白い服が、ヘブンを輝かせてでもいるように…。

皆からの祝福を一身に受け、心底幸せに笑む笑顔は、銀次が今まで見たどのヘブンよりも綺麗だと思った。

そんなヘブンの姿に一同は感動し、特に夏実達女の子は涙ぐんでさえもいて、銀次とて感動していたわけだが…


「本当にヘブンさん綺麗だったなぁ。やっぱり、結婚式っていいなぁ。蛮ちゃん、ウェディングドレスなんて着てくんないよね。」


花嫁のヘブンに蛮の姿を重ね見ていた事は、銀次だけの秘密である。



銀次は、先程の喧騒が嘘のように静まった教会へと歩いて行った。

教会から外へと伸びている白い石畳には、花びらもライスシャワーの跡も夢の名残のように残っている。

その間を通って扉を押すと、赤いヴァージンロードの先、椅子に腰掛けている見慣れた背中を見つけた。


「蛮ちゃん。こんな所にいた。探してたんだよ。これから、ホンキートンクでパーティーなのに。もう、皆行っちゃったよ?」


ヴァージンロードを駆けて一番前に座っていた蛮に近づく。

蛮は、背もたれに寄り掛かって、床から天井まで目の前に大きく描かれたステンドグラスを見上げていた。

ガラスによって緻密に形作れたキリストや天使、草花などが太陽の光を受け、それは鮮やかな色彩を反射させて美しく輝いていた。


「帰る前に見とこうかと思ってよ。」


芸術に精通している蛮は、こういった芸術性の高い作品には興味があるのだろう。

銀次は蛮の隣りに腰を下ろした。芸術云々の難しい事はわからないが、綺麗なものは銀次とてわかる。


「今日のヘブンさん、綺麗だったね。」


二人でステンドグラスを眺めながら、銀次は噛み締めるように言った。


「馬子にも衣裳ってか。まさか、ヘブンが結婚式あげるとはな。入籍にはこだわんねぇのに、式だけはあげてぇなんて、そんなにしたいもんか?」


蛮が呆れたように溜息を吐き出す。

煙草を探ろうとして、スーツのポケットに手を入れて、全面禁煙の為に持ち込んでいなかった事に気付き、蛮は小さく舌打ちした。


「でも、わかる気がするな。結婚式って、特別な感じがするもん。」

「そっか?金はかかるし、準備は面倒だし、意味ねぇよ。」

「柾が言ってたよ。『こんなに幸せそうなヘブンが見れたなら、それだけでも式を挙げた意味があった』って。」


銀次はそう言うと、蛮に向かって微笑んだ。


「みんな、幸せになりたいんだよ。だから、花婿と花嫁は永遠の愛を誓うんだ。そして、参列する人は、二人の幸せを一緒に祈って、ほんの少しだけその幸せを分けて貰うんだ。結婚式って、きっと、そういう事じゃないのかなぁ?」

「お目出度い考えだな。」

「だって、結婚式ってお目出度いじゃん。」


素っ気ない蛮に、銀次はケロッとして言い返した。

そんな銀次があまりにも銀次らしくて、蛮は腹を抱えて笑い出したい気分になった。

それをグッと堪えて、口端だけに笑みを乗せる。


「それで、お前は俺とも結婚式してぇなぁとか、俺にウェディングドレス着て欲しいなぁとか、考えてたわけだ。」

「な、何で、わかっちゃうの?」

「わからねぇはずあるかよ。お前の考えなんて、筒抜けなんだよ。」


銀次の後頭部に、小気味よい音が響いた。


「あいたっ。酷いよ。蛮ちゃん!}

「お前の幸せってのは、人をコスプレさせてぇとか、そんなもんなのか?」

「違うよ。俺の幸せは蛮ちゃんの幸せなのっ。蛮ちゃんが幸せなら、俺は幸せになれちゃうの!」


恥ずかしい台詞を、あまりにきっぱり言いきられ、逆に蛮の方が赤くなってしまう。


「恥ずかしい奴……。」

「ねぇ?蛮ちゃん。」


赤くなっている蛮に気付いていないのか、敢えて無視しているのか、銀次が急に思い立ったように講壇の前に立った。

そして、右手を胸に当てたかと思うと、銀次はキョトンとしている蛮に向かって言い始めた。


「俺、天野銀次は、美堂 蛮を生涯の伴侶とし、良き時も悪しき時も富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、死が二人を分かつまで、美堂 蛮を愛する事を誓います。」


一度もつっかえる事なく言い切った銀次の、凛とした表情に、益々頬が熱くなってくるのを、蛮は自覚した。



信じられない不意打ちだ。

いつもなら、とんでもない言い間違いをしそうなトコを、淀みなく言い切るなんて信じられるか?



「お前、何時覚えたんだよ。」

「柾が練習してるのを横で聞いてたら、何だか覚えちゃってさ。」

「どんだけ練習してんだ、アイツは。」


そんな風に誤魔化してみても、熱くなった頬は、なかなか冷め切らなかった。


「蛮ちゃんも誓ってくれる?指輪もドレスも何もないけど。」


恥ずかしくて目も合わせられずにそっぽを向いている蛮の前に跪き、銀次は優しく問う。

春風が頬を撫でていくように、蛮の鼓膜を揺すっていく声が心地よい。ここで、素直に『誓う』と言えたらどんなにいいだろう?

けれど、自分はその素直さを持ち合わせてはいなかった。


だからといって、このまま有耶無耶にしてしまいたくもなかった。

ヘブンの結婚式に、思いを重ねて見ていたのは、何も銀次ばかりではなかったのだ。


蛮は漸くと言った風に、銀次の顔を見た。

高鳴る心臓が聞こえてしまうのではないかと恐れながら、銀次の表情を見れば、緊張の色が伺えた。それが、蛮を少しホッとさせた。

何事かを紡がれるのを待つ銀次の息遣いが聞こえてきそうだ。跪いている為に、視線が低くなっている銀次へと、蛮は無言のままに唇を寄せた。


「ば、蛮ちゃん…?」


呆気に取られ、キスの意味もわからずにオロオロしている銀次に向かって、蛮は勝ち気な笑みで答えた。


「ばーか。教会でキスつったら、『誓いのキス』しかねぇだろうが!」


なんて、蛮らしい答えなのだろう。

固い土を押し退けて、双葉が芽吹くように、銀次の心に喜びや嬉しさといった感情が溢れ出てきた。


幸せ過ぎて、涙が出そう。

きっと、今の俺の顔って、さっき見たヘブンさんにも負けないくらい幸せそうな顔をしているだろうな。


だって、蛮ちゃんもそんな顔してるから。



「もっと、キスしてもいい?」

「誓い足りねぇの?」

「うん。幾らでも誓いたい…。」

「好きにすればい……。」


蛮の答えを待たずに、銀次はもう、唇を重ねていた。

誘うように薄く開かれた唇に、銀次は躊躇う事無く舌を差し入れた。あっと言う間に深くなった口付けに、荒い息遣いが教会に響く。

天使も神様も見ているのに、インモラルな行為を止められない。


「もっ……い、だろ?」

「やだっ。もっと、キスしてたい。」

「ばか……。もう、持たねぇって言ってんだよ。」


自身の股間へと銀次の手を導けば、そこは熱い息吹に満ちていた。


「蛮ちゃん。実は俺も…。」


照れたように笑う銀次のソコは、誤魔化しきれないくらい膨らみを持っていた。


「じゃあ。決まりだ。」


妖艶な笑みを浮かべて、蛮はスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めた。


「いいのかな?こんな所でシちゃって…。」

「押し倒してる奴がよく言うよ。大丈夫だろ?式挙げられるのは、一日一組限定なんだから、この後誰も来ねぇよ。」


長椅子に蛮を横たえて、跪いた姿勢のまま、体の半分を蛮の上に覆い被さるようにして、銀次は愛撫を始めた。

シャツの裾から忍び寄る指先が固くなり始めた突起を見つける。口付けの激しさと比例して、焦れるくらいにやわやわとソコを揉みしだいた。


「ふっ……んぁ………っ」


無意識に腰が浮いた。

背筋をかけ、腰を直撃する、ピリピリとした感触が、溜まらなく気持ちがいい。


「…ぁ……あっ……あぁ……んっ……あぁ、う………」


顎を伝う唾液が作る銀糸の道を辿り、首筋鎖骨と、舌先が蛮を甘く擽っていく。ジワジワと快楽という奈落に追い詰められていくようで、怖くもあり、否定出来ない喜びも湧いてくる。

一気にシャツを捲り挙げられ、素肌が外気に触れたかと思うと、指先で捏ねていた方とは別の突起に、熱いものが押し当てられた。

銀次の唇だと理解したと同時に、ぬめった舌がイタズラを仕掛けるように突起を刺激する。


「んっんっ……あぁ……あぁんっ……あぁ……っ…」


舌先で撫でられて、押し潰し、固い歯が甘く痺れる刺激を与えてくる。指先とはまた別の感触が蛮を襲い、腰への刺激は一層強くなった。

張り詰めてくる股間が、触れて欲しくてモゾモゾしている。

銀次は、それを感じ取り、ファスナーを下ろすと、下着ごと大理石の床へと落とした。

張り詰めた性器が、蛮の興奮を物語り、銀次は嬉しくなった。


「蛮ちゃん。起きて、俺の上に跨って。」


蛮を導いて起こすと、椅子に腰掛け、自分を跨ぐ格好で椅子の上に膝立ちにさせた。すると、蛮の股間が銀次の眼前に来るようになる。目の前にぶら下がる甘い蜜のかかったソレを銀次は頬張った。


「ふぅ、んっ……あぁ……」


触れて欲しかったソコに、熱い舌が張り付いてきた。それだけで、くらりと目眩を起こしそうだった。思わず、背もたれを鷲掴む。

粘膜に包み込まれ、吸い上げられながら上下に擦られると、溜まらないとばかりに、腰がビクビクと跳ね上がった。

唇や舌と共に性器を扱いていた指先が、唾液や精液で濡れ始めたのを見計らい、銀次は奥にそっと手を伸ばした。


「はっ……あぁ…あんっ………あっ……」


頑なな入口を指先が強引に入り込もうとしている。左手の人差し指と中指とが左右に割り、そこに右手の人差し指が潜り込む。

身動き出来ない程、きつく締め上げられたが、銀次の舌先が割れ目を刺激すると、一瞬だけ力が抜けた。そこを一気に根元まで指を差し入れる。


「うんっ……はぁ……あぁ……ぁ………ン…」


弓なりに背中が反れ、そのまま椅子から転げ落ちそうな所を、背もたれを掴んで押し留まった。

根元まで差し入れた指を内で軽く折り、引っ掻くように内部を擦っていく。指先に伝わる、温かな温もりと、柔らかく凹凸ある内部に、夢中で銀次は指先を動かした。


「……っ、あっ……あぁ、ァ……あんっ………ぁ…」


腰はガクガクと震えっぱなしだった。

銀次の口腔では、蛮の性器は今にもはち切れそうに膨らみ、感じている様を銀次に言葉よりも確かに伝えていた。


「あっ……もっ……だめっ……」


銀次の指が二本へと増やされて程なく、小さく蛮が『イく』と言った。直後、生暖かいものが銀次の口に溢れた。


喉を鳴らして、口の中のものを飲み干すと、萎えた性器を口元から解放し、手の甲でグッと口元を拭った。それが、酷く男臭くて、蛮は劣情を覚えずにはいられない。


「蛮ちゃん。乗って?」


蛮の眼下には銀次の性器が、腹部につきそうな程に反り返って、蛮の内に入りたそうに待ち構えていた。

銀次の指で十分に解れた入口に、銀次の性器の先端を押し当てる。徐々に体重を乗せていくと、切っ先が内に入り込んだ。


「ふっ……んぁ………あぁ、はっ……あっあっ…」


蛮を襲う圧迫感は、内臓という内臓をひっくり返されているような衝撃だ。何度、銀次と交わっていようとも、最初のこの得も言われぬ感覚だけは、いつでも初心を思い出させた。


「はぁ、はっ……あぁ、あんっ………っ……」


ゆっくりと体重を乗せて、ようやく銀次の全てを蛮が飲み込んだ。蛮の尻が、ぺたりと銀次の太股にくっつく。


「蛮ちゃんのナカ…、凄く熱いね。」


舌なめずりでもしそうな表情で、銀次が呟く。


「お前のも、な。」


体の中心を貫いている銀次の性器もまた、燃えるように熱かった。

二人は自然な導きに委ねるように、唇を重ねた。

先程飲み込んだ自分の吐き出したものの味がする、イヤらしいキス…、蛮は薄く笑った。


「んんっ……ふっ……んぐぅ………んっ」


蛮の腰を掴み、銀次は緩やかに動き出した。

始めは手の動きだけで蛮の体を上から打ち落とすだけだったが、それはほんの束の間で、銀次は下からも蛮を突き上げ始めた。

銀次の太股の上で、踊るように蛮の体が跳ねていた。


「ふぅ、んっ……ぁ……んっ……っ……ンン…」

「あっ…蛮ちゃん…蛮ちゃんっ」


蛮の腰に添えてあった銀次の手が力を失いつつあった。

もはや、銀次の意思ではなく、蛮の本能が腰を揺らめかせていた。

背もたれを握り締め、肉体を打ち付ける。銀次も負けじと突き上げて、闘ってでもいるようにお互いにぶつかり合った。


実際、闘っているのかもしれない。


そこら辺によくあるカップルのような、受ける側と与える側に明確に分かれているわけでなく、互いの魂をぶつけ合う対等な関係…だからこそ、銀次も蛮も目の前にいる相手と共に歩んで行こうと思ったのだ。


「蛮ちゃん。ずっとずっと側にいて…」


熱に浮かされた表情で銀次は言って、奥を突く。

小さな呻き声を上げ、蛮はそれに笑って答えた。


「ああ…。死が二人を分かつまで、な。」


自分に向けられた蛮の笑顔。

その幸せそのもので、そして、劣情を掻き立てる妖艶さに満ちた表情に、銀次はそれだけでイってしまいそうだった。

銀次はグッと耐え、蛮の性器に触れた。射精で萎えたはずのソコは、もう銀次と変わらぬまでに怒張していた。

腰の動きに合わせ上下に扱き、共に高みへと駆け上がるべく解放を促した。


「あっあっ……銀次っ……いっ……あぁ、銀次ぃ…」

「もう、イくよ?蛮ちゃん…」

「…ん、あっ………ぎん…じっ………」


蛮の内に熱いものが広がっていく。同時に、銀次の手中にも同じ熱さがあった。

二人の意識は、空よりも遙かな高みへと昇り、解け合って一つになっていた。二つを隔てるものはない。

誓った言葉そのままに、二人を死が分かつまで、喜びも悲しみも、この世に起こる全ての事を、二人で共に乗り越えて歩いていくのだ。


「愛してるよ。蛮ちゃん。」

「ああ。俺も愛してんぜ?」



ほら、何処からか音がする。

二人を祝福する鐘の音が…



幸福な疲れに包まれている二人に、それはいつまでも降り注いでいた。







【あとがき】

10万打のキリ番を踏んで下さった方が、甘くてハッピーでエロスがお好きだというので、目出度い感じに結婚式をテーマにしてみました!

結婚式どころか、教会で初夜まで迎えちゃったよ、おい…って感じですが、気にしない(笑)

式場の人は片付けるに片付けられなくて困ってるだろうな(^^;)



【コメント】

焔は99999番のキリ番踏みました(笑)1番違い!!

素敵なバカップル万歳なお話をフリーで頂けてラッキーです。

しかし、10万打…。凄いですよね。焔のとこももうすぐ1万打です。







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