「雨の日」の想い 1



耳につく雨音で目が覚めた。

「ん? 雨?」

まだ外は暗くて、眠りに入ってからさほどの時間がたっていない事が伺えた。

重い瞼を押し上げて、窓の外に目を向ければ、街灯の明かりで見えるその景色は、白くけぶっていた。

「うわっ、すっげー雨」

テントウ虫の外はバケツをひっくり返した、という表現がぴったりするほどの雨。

公園の地面を覆うコンクリートに水滴は弾かれ、表面に大量の水しぶきをたてている。

勿論、テントウ虫の外側や窓でも同じ。

外から今このテントウ虫を見れば水煙に白く彩られて見える事だろう。

ばらばらという耳に痛い程の雨音の中─銀次はすやすやと眠っていた。

「‥‥、良く眠れるな。さすが大物ってか?」

そう呟いてムッとした。

なんだか自分は小物だと認めるようなものじゃねぇか‥‥そう思ってしまったから。

ムニュっと銀次のほっぺを捕まえて左右へ引っ張る。

柔らかな肉は、意外なほどよく伸びて、なんとはなしに楽しくなってしまう。

「ん〜、蛮ひゃんも、はべまひゅかぁ‥‥」

「‥‥‥。どんな夢見てやがんだよ」

呟かれた銀次の寝言にヘタリと力が抜けて、蛮は彼の上に乗っかった状態になった。

とくん‥‥ とくん‥‥ とくん‥‥ 規則正しく聞こえてくる、鼓動。

ゆったりとしていて、聞いているだけで安心させてくれる。

雨の音は相変わらずだが、耳を澄ませば銀次の鼓動がすぐに聞こえる。

それが、オレは此処に居るよ、という銀次の主張の様で蛮は口許だけで笑った。

ぴったりと耳を銀次の左胸に付けると、まるっきり雨音が気にならなくなった。

運転席にほおってあった毛布を背中から羽織り、そのまま銀次にくっついて目を閉じた。

今の君はどんな夢の中に居るのだろう。


それは、楽しい夢ですか?


そこに俺は居るのでしょうか?


そして、君は、笑っているのでしょうか?


独りきりの頃は、こんなにうるさい雨の日は、眠る事ができなかった。

他人の気配やたてる音。

自分を危険から少しでも遠ざける為の情報。

それらがすべて、雨の音に紛れ消され、隠されてしまうから。

だから、雨の降る日は気を張った。

『死』がその姿を、雨の中に隠しているようで。

「生きたい」と願った事は少なかった。

「死にたい」と願った事も少なかった。

何にたいして警戒していたのか、今となっては思い出せないが。

でも、今は生きていて良かった、と思える。死んでしまわなくて、良かった、と。

お前と逢えて、今、此処に居る。それが、良かったと、素直に思える。






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「雨の日」の想い 2



ぽっかりと目が醒めた。

そうして見て、驚いた。

オレの腕の中に、蛮ちゃんが居たから。

すっぽりと納まって、すうすうとあどけない寝顔で、眠っている。

窓の外を見れば、周囲は水しぶきで真っ白だ。

音もうるさい程の雨で、かえって何も聞こえない程。

まるで、ぽつんとオレ達二人、取り残されてしまったかのようだ。


時計を見れば、時間はまだAM1:30

まだまだ、暗い。


「そっか‥‥、雨の音が‥‥うるさかったから‥‥、だね」

周囲の音や気配に聡い蛮。

それは言い換えれば、それらにずっと気を張っているという事だ。

ほんの少しの、微かなそれらを捕らえ損なわない様に‥‥‥、と。


恐らく、そのせいでだろう。


蛮は、他のものでそれらが捕らえられない状況になると、不安になるのだ。

そして、そんな状況になると、何故か銀次にくっついてくる。

他の時には、引っ付くと欝陶しがるのに、だ。恐らく、銀次の体温や鼓動に安心できるのだろう。

だから、銀次は嬉しくなってしまう。

彼が心細い時に、護ってやれる、安心を与えてあげられるというのは、ひどく優越感を齎してくれる。

(他の誰かじゃない。自分が、それを、与えてやれるっていう事が、かな)

他の誰にも見せない、自分だけしか知らないだろう、蛮。

それを見れるのは、自分ただ一人。

そういう、優越感。

他の人達にも見せたいと、そう思う時も確かにあるけれど、独り占めしたい気持ちの方が、より強い。自分の中の独占欲。

そういうモノを自覚したのも、彼と会ってから。

今までこんな風に思った事すら無かった。


そっと目元に落ちている前髪を払いのけてやれば、くすぐったかったのか、眉をひそめてモゾモゾと身じろいだ。

そしてまたすぐに、穏やかな寝息をたてはじめる。


こんな雨、そして、こんな時間。

今此処には、二人しか─── いない。


銀次は、蛮の肩をそっと手のひらに包んだ。




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「雨の日」の想い 3



暖かな、何かに包まれて‥‥

その安心感にたゆたって‥‥

漂っていた意識は、ゆっくりと覚醒してくる。

「ん‥‥? 何?」

寝ぼけ眼で、目の前の相手を見れば、にっこりとしたお日様笑顔が返ってきた。

「ね‥‥、したくなっちゃった‥‥ダメ?」

さわさわと背を撫でる手は、意図的なもので、ゾクリとした何かが走り抜けていった。

「ん‥狭いから‥やだって言ったろ‥‥」

「でも、こんな雨じゃどっかに移動もできそうに無いよ」

銀次はそう言いながらも、手の動きを止める気は全く無いらしい。

さわさわ‥‥

さわさわ‥‥

「んっ‥‥ちょ‥‥まっ‥‥あっ‥‥」

流されてしまうのは、すぐだろう。

でも、あっさりと折れてやるのは釈に障る。

だから、嫌がって押し退ける振りをする。

それがただの見せかけだって気付かれている気もするんだけどな。

「ね‥、お願い‥‥」

「ちっ‥‥、しゃあ‥‥ねぇ‥あっ‥うっ‥んっ‥」

直に素肌を愛撫されて、体温が上がる。

仕方なさそうな、俺の返事に銀次の笑顔はますます深くなった。




「んっ‥‥あっ‥‥、ふぁっ‥」

時々息に混じるように、微かな嬌声があがる。

赤みを増した蛮ちゃんの唇をオレは舌先で撫でるように舐めた。

「んっ‥あっ‥あっ‥んっくっ‥うぁ」

その間も、オレの手は蛮ちゃんの肌の上を処せましとさ迷っている。

オレの膝の上で彼は全裸になったその身を、快感に震わせている。

その肌は、熱を帯びて桜色に鮮やかに染まっていた。

「んっ‥‥やっ‥だっ‥て‥‥んあっ」

くちゅくちゅと、音をたてて後ろに突き立てた指をこねだすと、蛮ちゃんは腕を突っ張るようにしてのけ反った。

その反応を見て、オレは中に入れた指を蛮ちゃんの前に向かって軽く折り曲げた。

「ひあっ‥‥やっ‥あっ‥あっ」

そこには丁度前立線がある。

そこをぐりぐりとこねるように刺激してやると、蛮ちゃんは感じるらしくもぞもぞと自ら腰を揺らめかせ出す。

「あっ‥あっ‥んっ‥‥あ・あ・あっ‥」

蛮ちゃんの声から苦痛の色が無くなると、自分のモノをオレの腹に擦りつけだした。

「蛮ちゃん、気持ち、イイ?」

「んっ‥イイ‥イイ‥あっ‥んっ‥もっとぉ‥」

蛮ちゃんの叫びにオレはニヤリとほくそ笑む。

「んじゃ、望み通りに、ね?」

ちゅっと頬に口付けて、彼の中に突き立てた指を増やした。

それも、一気に4本に。

親指を除いた手指は全て蛮ちゃんの中だった。




「くあっ‥‥ああっ‥うっ‥んっ‥」

急に引きつった痛みに襲われて、俺は背をのけ反らせた。

その勢いでか、銀次の腹に擦りつけていた自身から、白濁した液が飛び散り互いの肌を汚した。

「あっ‥‥あっ‥あっ‥ふっ‥‥んっ」

ゆらゆらと腰が揺れる。

自覚していても止められ無い。

身体はどんどん快楽に酔いしれて、もっと奪い取ろうと、もっと感じようと、俺の意識を無視して暴走しだすのだ。

俺の意識は置いてきぼりで付いていけなくて、涙が溢れ出す。

「んっあっ‥‥やっ‥んっ‥んあっ・あ・あ・あ・あっ‥」

涙は止まらない。止められない。

「すごいね。蛮ちゃんの中、トロトロ‥‥」

「やっ‥い、う‥‥なっ‥、あっ‥いやっ、だっ‥あっ」

腰を振るうのも、止まらない。止められない。

自分を浅ましい生物(モノ)だと思うのはいつもこんな刻だ。

「気持ち、イイ?」

ぐちゅぐちゅと、音をたてて身体の中を掻き交ぜられる。

もう、感じ過ぎて、狂いそうだ。





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「雨の日」の想い 4



涙を流して、必死にしがみついてくる蛮ちゃんの背をぽんぽんと軽く叩いてなだめて遣りながら、彼の中を掻き交ぜていた指を抜き取った。

「腰、浮かせられる?少しでいいから。うん、そう」

腰に手を添えて支えてやれば、蛮ちゃんは素直に膝に力を込めて身体を浮かせる。

そうしてオレは少し身体をずらし、これ以上もない程立ち上がったペニスを彼の物欲しげにヒクつく後ろ口へと、宛った。

ズブリと濡れた音をたてて、ゆっくりと蛮ちゃんの中にオレのペニスが飲み込まれてゆく。

「んあっ‥あっ‥あ・あ・あっ‥イイよぉ‥もっとォ‥‥あっ‥ああっ」

ぐいぐいと蛮ちゃんの中にいるオレのペニスを締め付けながら、腰を揺すりたてる。

ねっとりと絡み付く、彼のやわ肉。

「うん‥あっ、蛮、ちゃ‥んっ」

下から突き上げてやれば、彼は喉を反らしのけ反った。

「あ・あ・あっ‥やっ‥あっ‥ああーっ」

これ以上もないくらいの絶頂へと二人で同時に上りつめ、その精を吐き出した。



ティッシュで汚れを拭いながら後始末をしている間、蛮ちゃんはぼんやりとしたまま白んでくる窓の外の空を見ていた。

尤、目を向けているだけで、本当に見ているのかどうかは怪しいと思うんだけどね。

空が明るくなってきても、激しい雨は変わらない。



服を着せて、整えてやってから毛布で包む。

そのまま再び腕の中に抱き込む。

その上からオレの分の毛布をかけて自分ごと包みこんだ。

「疲れて眠いんでしょ? 寝ちゃっていいよ。ずっとこうして居てあげる」

もぞもぞとみじろぎ、オレの胸に耳をぴったりと押し付けるようにして、蛮ちゃんはゆっくりと瞳を閉じた。



段々明るくなってくる空。


けれど、雨で外は何も見えない。

白い水煙の中に塗り込められてしまっている。


雨音と、強い風の音で、他の音は何も聞えないほど。




二人っきり、取り残されてしまったかのような、小さなセカイ。

てんとう虫の中の、ホンの小さな、温かな空間。



胸元からは、穏やかな蛮ちゃんの寝息が伝わってくる。

ほんのりとした、体温のぬくもりも。






心地よい疲労に、雨の音も風の音も気にならなくなってきた。


安心を誘う、より温かな塊をしっかりと抱きしめて、オレも再び眠ることにした。







次に目を開けたら‥‥‥

  きっと、晴れた鮮やかな蒼が、見れるよね。





終り



コメント:蛮ちゃんが安心できるのは銀次の腕の中。だったらいいなぁ、なんて焔の妄想が暴走した結果です。
これのラストに裏部屋作るかどうかのアンケがありました。
コメントくださった皆様、ありがとうございます。
実は、サイトでは裏話初書きだったんですよ。この拍手が。(焔)

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