ここは小さな田舎の寂れた村です。 大人たちは畑や近くの森から取ってきた木の実や果物を売ったりして何とか生活しているような、本当に小さな村でした。
銀次は、子供達の中でも年長で、彼の仕事は大人たちの手が足らないときの手伝いか、子供達を纏めて面倒見ることくらいでした。 けれど、今日は大雨の所為か、どちらの仕事もありません。 銀次は退屈になってこっそりと家の外へと抜け出したのでした。
雨はざんざんと降り付けて、持っていた傘もとうに壊れ、銀次は瞬く間にびしょぬれになってしまいました。 雨宿りできる場所を探して、銀次は森の中に入り込みました。 森の中では、生い茂る木々のお陰で、雨も風も、森の外ほどありません。 濡れた髪を掻き揚げて、銀次は迷わないように気をつけて森の奥へと足を向けたのでした。
気づけば、いつの間にか雨は止んで、暖かな光が差し込んでいました。 雨が止んだことに気がついた銀次は慌てました。雨が止めば大人達が畑仕事に取り掛かります。 今は春の芽生えの時期で、銀次もそれを手伝わなければなりません。 急いで家に戻ろうと銀次は振り返りました。 ところが、今さっきまで歩いてきた道がありません。 「え〜? なんで道が無いの?」 叫んだところで誰も返答はくれません。 仕方なく、銀次は道があるところを進むことにしました。道があるということは、どこかに抜けているはずだからです。それが隣村だってこの際構わないことにするしかありません。
歩いても歩いても道は森の木々の間をうねって続きます。 このまま歩けば、森を抜けたら隣村どころか別の国に出てしまいそうです。 銀次がそう思ったとき、道の先が明るく開けて見えました。 森を抜けたのかと、銀次は駆け出して急ぎました。 しかし、そこは森の外れなどではなく澄んだ湖があったのでした。 「この森に、こんな湖があったなんて知らなかった‥」 すると、銀次の耳にぱしゃんという水音が聞こえてきました。音のした方を見ると、まだ若いのばらの精が水浴びをしているのが見えました。 のばらは銀次の事を気にするでもなく、澄んだ水と戯れています。 「のばらだ。でも、珍しいなぁ。あんな大輪の華をつけるのばらなんて‥」 銀次のいうとおり、のばらはたいていが小さな花をたくさんつけるものなのです。大輪の華はとても高く都で取引されているのだと銀次は大人たちから聞いたことがあります。 この森に大輪の華をもつのばらが自生しているのなら、村は豊かになるはずです。 「ねぇ、君。のばらでしょ?」 銀次はのばらに声をかけました。 「? うっせぇよ。俺になんか用かよ?」 「君、一人だけなの?」 のばらは密集して咲くものです。けれど、彼はひとりだけで、他に仲間達がいるようには思えなかったのです。 「ほかののばらは俺になんて声かけねぇし、近づいてもこねぇよ」 「なんで?」 「お前、しらないのか? のばらは普通赤や白や黄色だろうが」 華の色は確かに彼が言ったとおりの色しか、のばらにはありません。けれど、目の前の彼はそのどの色でもなかったのです。 「でもバラには黒いものがあるって聞いたよ。とっても珍しいけど。君もそうなんじゃないの?」 のばらは艶やかな黒い花びらを逸らしてそっぽを向きました。 応える気はないと態度でしめしているのでしょう。 「君、綺麗だよねぇ‥」 銀次はのばらをうっとりと見つめます。 そんな風に見られた事など無いのばらは戸惑うばかりです。 「ね、名前教えて? 俺は銀次」 「蛮だ。お前、変な奴だな? どっから来たんだ?」 「森のはずれの村から」 「ああ? 嘘付けよ! あそこから此処までかなりの距離があるぞ?」 「でも、本当だよ?」 「で、何が目的なんだ?」 「え? えへへっ、実は迷っちゃったんだ」 銀次は頭をかきながら正直に言いました。 森に咲く花達なら、道に迷うこともないし、道を知っている筈だからです。 「ふーん。送ってってやりてぇけど、まもなく日が落ちるから無理だな」 花達は日が出ていない夜には殆どのものが眠りにつくのです。 「じゃ、野宿するから、明日日が昇ったら、道を教えてよ」 銀次はのばらの蛮と別れたくなくてそう言いました。 「‥‥。いいぜ。付いて来いよ」 蛮はそういうと湖から上がり、すたすたと歩き出します。 「ば、蛮ちゃん。ひょっとして、服とかないの?」 「は? のばらが服なんて着てるわけねぇじゃん」 蛮は惜しげもなく、みずみずしい若い姿を見せ付けています。 (オレの理性のほうが‥もたないかも‥) 仕方なく銀次はあいまいな笑顔を浮かべごまかしました。 蛮は変な奴、とでも言うように首を傾げましたがたいして気にもせずにまた歩き始めました。 銀次は置いていかれないようにと慌てて蛮の後ろを付いて行きました。
やわらかそうな若草の褥の中で、蛮はすやすやと眠っています。 それを膝を抱えて座った銀次がじーっと見つめています。 ころりと蛮が寝返りを打ったことで、とうとう銀次の我慢は限界を超えてしまったのです。 眠っている蛮ににじり寄ると、そっとその裸体に指を這わせました。 「んっ‥‥、ふっ、ん」 蛮は吐息のような喘ぎをこぼします。 銀次は蛮が目を覚まさないことを確認するとだんだん大胆に彼に触れ始めました。 ゆるゆるとした愛撫から始まって、だんだんと行為はエスカレートしていきます。それに伴い銀次の興奮もいやおうなしに高まっていきます。 蛮の中心でそそり立つ欲を目に止めると、にやりと黒い笑みが浮かびました。 それを手の中に慎重に握りこむと、上下へゆすり立てるように扱きます。 「んあ、あ、あ、あんっ」 暫くするとそれは白い液を吐き出しました。それと同時に張り詰めていた蛮の身体も力が抜けくたりとくず折れます。 「まだ、これからだよ」 蛮の耳にそう囁くと銀次は蛮の両足首を持ち、上へと引き上げ膝を折り曲げさせました。 そうすると、蛮の中心は銀次の前にさらけ出されました。 白い液で汚れたままのそこは期待からなのか、興奮からなのかわからないですがぴくぴくと引きつるようにうごめいています。 その小さな入り口に銀次は自分の指を押し込みました。 「あ、っつぅ‥。な、何するんだ! いやだ! こわい」 「大丈夫、怖くないよ」 痛みで目が覚めた蛮に宥めるようにそう言うと、銀次は指を動かします。 「や、嫌だ。俺はまだ咲いたばっかなんだから‥、そんなの、早い! いやだ〜っ」 「つぼみじゃないんだから、早い訳ないよ。大丈夫」 ぐにぐにと体の中で蠢く指に蛮は怯え、身を震わせます。 のばらに限らず、精たちは他の生き物と交わってから同族同士で結実して子孫を増やすのです。 唯の華なら、同族との受粉だけで済むのに、精たちはそれだけでは結実できないのです。だから、他の生き物達にとって魅力的な姿をとります。 大抵は交わるのに都合が良い人間の姿のものが多いのです。 「そんだけ綺麗な大輪なんだから、俺じゃ無くったって直ぐだよ。でも、他の奴になんて譲りたくないんだ」 「で、でも、それだって今日、今じゃ‥や、やだっ‥」 蛮は必死に銀次を押しのけようとしました。しかし、日の無い夜中ではたいした力は出ません。身を守るための棘もすっかりと快楽にとかされて役に立たない状態です。 「や、あ、ああっ‥ふぅ‥んっ」 銀次の指は構わずどんどん奥に進んできます。中をぐにぐにと掻き回されて、だんだんと訳がわからなくなってきた蛮は、自分を抱きしめるように手を回すと快感に身を震わせます。 中に3本もの指を銜え込む頃には、蛮の口から零れるのは吐息のような喘ぎとすすり泣きだけになりました。 「もう、痛くないよね」 独り言のように銀次は呟くと、自分のオスを取り出し、先端をたった今まで自分の指を銜えていた場所に宛がいました。 そのまま、勢いをつけて一気に根元まで押し込めば、その衝撃に蛮は身を反らして甲高い悲鳴を上げました。 「やだっ、お願い、止めて、助けて‥、痛いよぉ‥」 必死に縋りつく蛮の言動は幼く、彼が本当にまだ若いのばらなんだと銀次に教えてくれます。 「もうちょっと、だけ、我慢して」 銀次はそう言いながら、先ほど蛮が感じて乱れた場所を狙って擦りあげてやります。 そうしたとたんに、蛮はびくんと大きく身を震わせました。 「あ、いやっ、そこ、だめぇ‥! ひんっ」 それでも銀次は容赦なく蛮を責め立てました。 腰を大きく回しながらねじ込めば、蛮は嬌声を上げて身を捩ります。 「気持ちいい?」 そう銀次が聞けば、蛮はこくこくと頷いて返します。 「オレも、気持ちいい。あ、イきそう」 銀次は自身が達するために、動きを早めました。それに蛮は揺さぶられながらも快感に喘いでいます。 「う、んっ!!」 一際奥にまで押し込んで、銀次はそこで達し、蛮の中にたっぷりと自分の精を注ぎ込みました。 「ひっ、あ、あ、あ、あ、あ、あああああぁぁぁぁぁっ」 蛮も奥に感じた熱さに、殆ど同時に達しました。 その疲れのままに、二人は眠ってしまいました。
翌朝、不機嫌でも約束どおりに蛮は銀次を森の外れにまで案内してくれました。 「じゃあな。もう迷子になんかなるなよ」 「蛮ちゃんは、これからどうすんの?」 「折角お前が精をくれたけど、俺と交わってくれるような同族の奴なんていないから、実を付けることは無いだろうよ」 そうして唯、華を落とし、来年を待つだけだ、と蛮は言いました。 「じゃあさ、オレのとこにおいでよ。蛮ちゃんの相手を探してあげられると思うよ」 「マジかよ? 俺の同族?」 「うん。蛮ちゃんさ、自分のことのばらっだって言ったじゃない? 本当に、のばらなの?」 「どういうことだ?」 「オレの考えじゃ、蛮ちゃんはのばらじゃなくって、黒薔薇だよ。しかもそれだけ漆黒の華の色は本当に少ないんだって。黒薔薇はたいていが赤い色が濃く出すぎたものが多いんだ。それに唯の黒薔薇じゃなくて黒薔薇の精となれば、もっと珍しくなっちゃうんだ」 「俺が、のばらじゃなくて、黒薔薇? あの森には他に薔薇なんていなかったぞ」 「多分、誰かが種か芽生え状態の時に持ち込んだんだと思うよ。だから、蛮ちゃんはもともとのばらとは同族じゃないんだよ」 今ひとつ、蛮は信じられなさそうです。 「だから、ね。来てよ」 銀次は蛮のほっそりとした肢体を抱きしめました。 「‥‥。わかった。確かめるまでで良いんなら‥‥あ、れ?」 蛮はそう言って急にぐったりと銀次の手の中に収まりました。 「え? 蛮ちゃん?」 ぐったりとした蛮に銀次は慌てました。 「大変だ〜」 そのまま蛮を抱えあげると村に向かって走りました。 「誰か、助けてよぉ」 「どうしたんですか、銀次さん。心配したんですよ」 「あー、かづっちゃん。蛮ちゃんが‥」 「黒薔薇の精じゃないですか! 一体どこでみつけたんです?」 「森で迷子になっちゃって‥。ねぇ、蛮ちゃん、一体どうしたの?」 「ちょっと待ってください」 花月は村の中では一番、植物や精たちに詳しい人物です。直ぐに彼に会えたことは銀次を幾分か安心させたました。 「これは‥」 「何? 蛮ちゃん、枯れちゃうの?」 「いいえ、大丈夫ですよ。これは結実したんですよ。その為に眠りに入ったのでしょう。一月もして実を落とせば目覚めますよ」 「結実? って、蛮ちゃんは同族と交わってないよ?」 「黒薔薇にはまれにですが起こることですよ。彼らは非常に数が少ないので、同族と交わることが出来ないものも多いんですよ。だから、他の種の精だけでも相性さえ合えば結実するんですよ。ゆっくり休めるとこに寝かせて、水だけを切らさないようにしてくださいね」 「うん。わかった」 「この黒薔薇は、村を豊かにしてくれるかも知れませんよ?」 「え? どういうこと?」 「黒薔薇は、珍しいんですよ。彼の実から生まれた種子が唯の黒薔薇でも、都で高く取引されます。そうすれば村に入るお金も増えるし、此処に黒薔薇があるというだけで、買い付けにくる人も増えるでしょう」 「そっか、そうするとお金がたくさん入るんだね」 「ええ、だから大事に育ててあげてくださいね」 「うん。わかった。ありがとう、かづっちゃん」 銀次は花月と別れて自分の家へと急ぎました。
「あの黒薔薇を結実させたのは、あの様子なら、銀次さんなんでしょうね」 花月は去っていった銀次には聞こえないように呟きました。
蛮の落とした実からは、普通の黒薔薇しか生まれませんでしたが、それでも、紫がかった光沢を持つ、漆黒の薔薇は珍しくて、とても高値で取引されるようになり、村は豊かになりました。 銀次も畑仕事から解放されて、蛮の世話だけをしていればいい、今の生活をとても幸せに感じました。 「あ、も、だめ、やめっ」 「まだまだだよ、寝せてあげないからね?」 今日も銀次の家からは、蛮の喘ぎが流れてきます。 村の人々はそれを苦笑しつつ、暖かく見守っていました。
なにはともあれ、二人はそのまま幸せに過ごしました。 めでたし、めでたし。
コメント: 何も、聞かないでください(><; 童話風を目指して見ました。実は、ネタの思いつきはカリヨンのオルゴールです。ほら、何時って知らせるのに鐘と一緒に流れたりするでしょ?アレです。 4月半ばから、曲が変わったんですよ。『野ばら』に。詩はゲーテだったはず。曲が2種類あることでも有名ですが、あのアレです。 歌詞を思い出してみて、この「野中の薔薇」が魅力的な人物の置換だとしたら? って妄想してみてください。すごーく怪しい風味になりませんか? だって、「清らに咲ける、その色愛でつ、あかず眺む」ですもん。で、こんな話が出来上がりましたとさ。 焔の頭の中はどうなってるんだか(><) 取り敢えず、今月いっぱいフリーにしますので、こんなのでもよろしければお持ち帰りしてくださいな。 報告は任意で構いませんよ。 フリー期間は終了いたしました。お持ち帰りした皆様、ありがとうございます |