「うわぁ。霜降りステーキに、こっちはキャビアだって!どれもこれも美味しそうだなぁv」
蛮に言われて料理を取りに来た銀次であったが、見た事もない豪華な料理を前に、すっかり今日の目的を失念していた。
「楽しそうですね。銀次くん。」 「はい。だって、ここ3日パンの耳しか食べてな……って、あ、赤屍さん。何でここに!」
振り返えれば、最も会いたくないと言っても過言ではない黒ずくめの男が、間近に立っていた。
「いえ…、ちょうど仕事でこのホテルに用事があって来たんですが、ロビーで見慣れた顔をお見かけしまして…。」 「え?見慣れた顔って?」 「おや。やはり、ご存知なかったんですね。女装されていたようですが、あれは美堂くんに間違いないでしょう。」
赤屍の台詞に、銀次の顔から一気に血の気が引いた。 と、同時に今日、ここに来た理由をまざまざと思い出したのだ。
−馬鹿だ。俺、蛮ちゃんから目を離しちゃいけなかったのに。
濁流の如く押し寄せてくる後悔の波に、銀次の胸は張り裂けそうだった。けれど、後悔している場合ではない。
「赤屍さん。その人、何処へ行ったかかわる?」 「それは、貴方をその男の元に運ぶという依頼と受け取ってよろしいので?」 「でも、俺、お金は……。」
戸惑いを見せる銀次に、赤屍はいつもの張り付いた笑みを浮かべた。
「いえいえ。お金などいりません。私が欲しいのは…。」
耳元に囁かれた赤屍の要求に、銀次は苦渋の表情を浮かべる。
「どうしても、それでないとダメですか?」 「はい。」
きっぱりと言い切られ、銀次は渋々OKを出すしかなかった。
「わかった。俺をその男の元に、蛮ちゃんの元に運んで!」 「承知しました。」
黒衣の運び屋は下心を込めて承諾した。
気が付くと蛮はシーツの海に沈められていた。 起き上がろうにも、すっかり薬の効いた体は、まるで他人のもののようだ。 さらに両手首には黒皮のベルトがつけられ、そこの間には短い鎖がついている。
「お目覚めかな?」
バスローブに身を包んだ男が現れ、動けぬ蛮の隣りに腰を下ろした。
「ああ。気分は最悪だけどな。」 「時期によくなる。」
男は胸に手を置いてハッとなった。 見た目にはわからぬようになっているが、その胸はヌーディストブラとパットを駆使して作った真っ赤な偽物だ。
「これは…。」 「生憎だったな。俺は男なんだよ。」
蛮は皮肉に唇を歪めた。 だが、萎えると思っていた男は不敵に高笑った。
「生憎だったな。それで私が萎えると思っているのか?」 「何だと?てめぇだろ?パーティー会場から女をかっさらってんのは?」 「ああ。確かに女は浚ったさ。けれど、私はね。男であろうと女であろうと、美しい者が好きなんだ。性別など関係ない。」
覆い被さるように、蛮の上に跨り、顔の横に両手を付いて、冷酷に歪む顔を近づけた。
「それに、君は浚った女の誰よりも美しい。どうだい?私に飼われてみる気はないかい?」
蛮は艶めいた笑いを敷くと、ペッと男の顔に唾を吐きつけた。
「その瞳ゾクゾクするね。益々啼かせてみたくなる。」
手の甲で唾を拭いさりながら、猟奇的に瞳が見開いた。
「この変態!」 「褒め言葉として受け取っておこう。」
男はそのまま馬乗りになって覆い被さると、蛮の項に舌を這わせた。
「んっ………。」
脇から手を差し伸べて、ヌーディストブラとパットだけを取り払うと、ドレスの布越しに胸の突起を摘んだ。 女装姿のまま蛮を犯そうとしている魂胆が見え見えだ。
「んっ、くぅ………ぁ……っ。」
ギュッギュッと親指と中指で押し潰され、コリコリと固くなっていく果実。先端の敏感な部分に布が擦れて当たり、そのむず痒さに腰が疼く。 人差し指の固い爪でその先端を虐げたげられると、さらに疼きの波は体中に広がっていった。
「……あっ……ふっ、ぁ………あっ……。」
男は布をずらすと、露わになった果実にむしゃぶりつく。 尖めた舌先で、同じように先端を虐げながら、吸い上げたり、舐め上げたり、時に歯を立てて、存分にそこを味わう。
「あぁ、あっ………っ……ん、っ。」 「初めてではなさそうだね。こんなに体が喜んでいる。」
体は正直だ。撫でられたそこは、快楽を感じ、隠しようもなく膨らんでいた。 男は、スリットから除く足に唇を寄せ、その柔らかな内股に所有の証を刻む。
「んんっ……。」
幾つもの花弁を刻みながら、男は蛮の両足を肩に担ぎ上げた。
「ひぃ、いっ………やぁっ……。」
必然的に男の眼前に見られたくない秘部が晒される格好になる。
−畜生。反吐が出るっ。
見知らぬ男に抱かれるのは初めてではない。 マリーアの元を飛び出した頃は、それで生活してたくらいだ。けれど、今は激しい嫌悪に吐き気すら込み上げる。
「はぅ……あ、あ、っ………。」
熱い吐息が掛かったかと思うと、男は秘部に舌を這わせた。 態とらしく、ピチャピチャと立てられた卑猥な音が、蛮を羞恥に戦慄かせる。 親指を突き立てられ、こじ開けるように入口を広げられ、生暖かい男の唾液が注ぎ込まれていくのがわかった。 そして、差し込まれた指が唾液を掻き混ぜるように、ナカで蠢く。
「あっ、あっ………ぁ……いっ………ぁ、ン。」
声など上げたくないのに、押さえきれずに甘く喉を駆けていく。 吐き気がする程に嫌悪を感じていても、体は否応なく追い詰められた。
「さぁ。今度は指ではなく私を受け入れてくれ。」
足の間から顔を出した男は、唾液に口元を妖しく濡らし、下卑た笑いを浮かべていた。 ヒクヒクと手招く秘部に、男が自身を挿入させようとした時、ドアが無遠慮に開け放たれた。
「蛮ちゃん!」 「ぎ、んじ……。」
薬で視界が歪むのに、何故か銀次の姿だけは、鮮明に瞳に描かれる。
「蛮ちゃんから放れろ!」
普段の銀次にはないドスの効いた低い声で叫ぶと、一足飛びに男に迫った。 飛びかかってベッドから突き飛ばし、床に転がった男の胸倉を掴んで馬乗りになった。
「銀次っ。」 「かなり頭にきているようですが、殺しはしないでしょう。」 「赤屍!何で、お前までここに?」
挨拶程度にニコッと微笑むと、メスで手首の皮ベルトを取り外してくれた。
「仕事でこのホテルに来たんですが、ロビーで貴方を見掛けましてね。銀次くんから貴方の元に運ぶよう依頼されたんですよ。」
緊迫した状況下の中で、赤屍だけは一人冷静に答えた。
「そうだ。銀次は…。」
バスローブの襟首をギリギリと締め上げて、男を睨む銀次の姿は、何処か雷帝を彷彿とさせた。
「お前、蛮ちゃんに何をした!」
ニヤリと笑うと、男は思ってもみない事を言ってきた。
「いくら欲しい?」 「い、いくらって……。」 「一千万か?一億か?いくらあれば、彼を譲ってくれるんだ?」
卑しい笑みに、銀次の体に磁気が帯びる。 答えぬ代わりに、パァンとベッドの脇に立つスタンドの電気が弾けた。次いで、部屋の奥にあったテレビから煙が上がり、部屋のデジタル時計があらぬスピードでクルクルと時刻を刻み始めた。
「ぐあぁっ!」
そして、男の体にも同じように電気が走り抜け、内蔵を焦がすような衝撃にのたうつ。
「丸焦げにしたい所だけど、これで勘弁してあげる。 でも、蛮ちゃんは俺のだから、また手を出すようなら次は容赦しないよ?」
「う、うわぁぁあ。」
男は叫びながら、そのまま白目を剥いて気を失ってしまった。その男を銀次は、バスローブの紐で縛り上げた。
「銀次…。」
怒りに駆られた男の名前を呼べば、振り返ったその顔には、すでに怒りの色は見えず、情けないくらい眉を八の字に下げた顔をあった。
「蛮ちゃん。ごめん、俺……。」
ギュッと抱き締めるその背に、腕を回す。
「なーに、情けねぇ声出してんだよ?犯人も捕まったし、結果オーライじゃねぇか。」 「でも、蛮ちゃんがあの男に…。」
抱き締めた腕にさらに力が込められる。
「やれやれ。まだ、私もいると言うのに。」
赤屍は溜息まじりに呟く。 そして、転がっている男を担ぎ上げた。
「これはサービスですよ。銀次くん。報酬、楽しみにしていますよ?」
そう告げて、赤屍は部屋を後にした。
扉の閉まる音で、蛮はハッと我に返る。 だが、銀次に戒めを解く気配はない。
「銀次…?」
不安に名を呼んだその唇を奪われて、性急に舌が差し入れられた。直ぐさま舌を絡ませ、口腔を縦横無尽に舌が舐め上げ、舌を唇を吸い上げた。 まるで酸素までも奪われるような激しさに、銀次の尋常でない思いが言葉よりも伝わってくる。 銀次はそのまま蛮をベッドに押し倒し、愛撫を始めた。
「ぎんっ……あ、あぁ、ン……っ。」
男によってすでに解きかけていたそこは、難無く銀次の指を飲み込んだ。 それがまた、銀次を一層悲しい気持ちにさせた。
「許せないっ。俺以外の人間が蛮ちゃんに触ったかと思うと……。」
項に刻まれた花弁に気づき、銀次は痛いくらいの強さでそこを塗り替える。内股に同じように咲くそれも、一つ残らず自分の所有印に変えていく。 塗り替えながらも、秘部を掻き混ぜる指の動きは止まない。それどころか、激しさを増して、グチャグチャと卑猥な音を奏でている。
「あぅ……あっ、……ぁ………っ。」
ズルリと指を引き抜くと、名残惜しそうに肉襞が擦り寄ってきた。膝裏を掴んで大きく左右に開かせ、一気に奥まで貫く。
「ひっ、あぁっ………。」 「蛮ちゃんっ。蛮ちゃんっ。」
奥まで貫いたそれを抜けるか否かの所まで引き抜いて、ポッカリ空いたそこに、再び一気に奥まで突き上げる。 体の内に思いを刻みつけるように荒々しく蛮の体を揺さぶり、前立腺を太く張り出したソレで抉った。
「蛮ちゃん。蛮ちゃんは、俺のだよね?俺以外にいらないよね?」
激しい交わりに比例して、泣き出しそうなその顔に、蛮は緩く微笑む。
「ああ。俺はお前んだ。だから、お前だけを感じさせてくれ。」 「蛮ちゃん…。」
喜びに膨れあがった自身に、より深く抉られて、蛮の体は大きく跳ねた。 口付けでルージュの禿げた顔をみやり、肌触りのいいドレスの布地をシーツの上に散らして、まるで女の蛮を犯している錯覚に陥りながら、銀次は高みへと登るストロークを刻む。
「あっ………あぁ、あっ……銀次っ、イくぅ……あぁっ。」 「蛮ちゃん、蛮ちゃ………。」
身を焦がすような独占欲。 その愛に焼かれるのも………
−悪い気はしねぇな。
弾けていく意識の中で、蛮はそう思った。
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