銀色の自転車 1
 


 それは4月の中頃から、ホンキートンクの店の脇に置かれるようになった。


 何の事は無い。

 唯の一台の磨きこまれた銀色の自転車だ。


 7月になった頃には、転んだりした後なのだろう、あちこちとキズや汚れが付いていて、元の色など既に怪しいものになっていた。


 その自転車はリサイクルの店で波児が買ってきたものだ。

 持ち主は銀次。

 車の運転の出来ない彼のちょっとした足になれば、と4月の誕生日にプレゼントしたものだった。のだが、そこに少々問題が生じたのだった。



「わー、ありがと。波児さん」

 銀次は嬉しそうに言い、その後、ちょっと困ったような顔をして頭を掻いた。

「? どうした? おき場所のことなら、ここに置いておいて構わんぞ?」

「あ、うん。それもなんだけど…」

「それ以外に何かあるのか?」

 波児の疑問に銀次はますます困ったような、照れたような、曖昧な笑みを深くする。

「うん…。俺、自転車ってさ、実は乗ったことないんだよね」

 銀次の誕生日パーティーに集まっていた面々は『あっ』という顔をした。

 普段ののほほんとした銀次の様子から良く忘れられてしまうのだが、悪鬼の巣窟などという物騒な名前ですら呼ばれてしまう場所で、彼は育ったのだ。

 毎日が生きる為、生き残る為の戦いだったはずだ。

 そして、身を隠せる様な場所は、往々にして瓦礫の山になったところが多いのだ。

 そんな場所で自転車など需要や必要性があるはずは無い。

 だから、当然といえばそれまでだ。


「じゃ、乗れる様に、練習しましょう!」

「そうです。練習です!」

 夏実の意見に、レナも力いっぱい同意する。自分達だってコーヒーをちゃんと入れられるように、毎日練習しているのだ。

「え? 乗れる様に? 練習?」

「ああ、夏実ちゃん達は乗れるんだったね」

「はい、マスター。勿論、のれますよ〜」

 ニコニコと夏実が言い、レナも拳を握ってコクコクと頷く。

 波児の目が銀次へと向けられた。尤もサングラスの下に隠されてしまっているので本当に見ているのかはわからないのだが。

「教えて、もらえ」

「………はい……」

 有無を言わせぬ迫力に押され、元々が素直な銀次はそう答えていた。


 かくして、銀次の自転車乗ろう作戦は開始されたのだった。




コメント;

 初の連載ものです。(笑)大したものじゃないですよ? この後の展開もよめるのでは無いでしょうか? おそらく、予想は外していないと思われます。


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