銀色の自転車 2


 夏実、レナの休みの日や、昼休み時間にホンキートンクの近所の公園に行き、自転車の練習をする。

それが、銀次の誕生日の次の日から始まった日課だった。


 4月末から、5月に入り、6月は雨も多かった所為で殆ど休み状態で、今は既に7月に入ったところだ。

 始めはぴかぴかに磨かれていた自転車も、いつの間にやら傷や砂、泥などですっかり汚れてしまっている。

 元々、運動神経が悪いわけじゃないのに、いまだにまともに乗れない所為だった。

 何故か、すぐ転ぶのだ。

「銀ちゃん! ファイトです!殆ど乗れてる筈です! あと少しです!」

「そうです。もう少しです!」

 女の子2人に励まされるが、それが余計に銀次を落ち込ませた。

「んあ〜。ど〜してすぐ転ぶんだろ?」

「さあな」

 銀次に対して蛮の返事は些か素っ気無い。

「ううっ‥、蛮ちゃん、冷たい」

 蛮はふん、とそっぽで全く取り合わない。

 いつもの事と言えばそうなのだろうが、何となく、何かがおかしい気がする波児であった。

 何が、おかしいか、といえば、蛮の様子が‥‥である。

 銀次は今、自分の事で手一杯な様子なので、気付いてはいないようだ。

 波児は、そのままじっと蛮を観察してみた。そして、ふとある事に思い当たった。

「気にすんなよ。乗れるようになるまでの時間なんて個人差があって当たり前なんだ。ましてや、大人になってからだとこういう事は意外に時間がかかったりするんだよ。なぁ、蛮?」

「え‥‥、あ、ああ。まあな」

 蛮はもごもごと歯切れの悪い相槌を打つ。

「でもさ、すぐ転んじゃうんだよね。こう、横にずりっと滑るみたいに‥」

「バランスが悪いんじゃねぇの? スピードが出ればバランスの安定が取りやすくなる筈‥‥。そのはず‥」

 そっぽの蛮がボソボソと呟いた。語尾にかけて弱く、口の中でだけ付け足したような感じだ。

「そっかぁ‥‥。バランスかぁ。そういえばすぐ自転車って傾くんだよね。ペダル踏むとさ」

「ん〜、確かにそれだとバランスを崩しているだけな感じだな。今度、蛮にちゃんと教えてもらっちゃ、どうだ?」

「うん! そうだね。蛮ちゃん、今度乗って見せてね!」

「う‥‥、そ、そのうちね‥‥、な」

 蛮は曖昧な返事を返すと、じろりと波児を睨んだ。生憎と、そんなもので動じる様なら裏新宿でなんて生きてはいけない。当然の如く波児は軽く受け流した。

 そして、ますます自分の感じた違和感に確信を持った波児は、にっと蛮に笑いかけてやった。

 その笑みの訳を気付いたらしい蛮は思いっきり顔を顰めて見せたのだった。



 そして、その蛮のアドバイスが功を奏したのか、8月に入った頃にはすっかり自転車に乗れるようになった銀次がいたのだった。



 蛮の隠し事がばれるのはその直後のことであった。




 そうして、銀次の自転車はいまだに傷と汚れを増やしているのだった。




 コメント;

      蛮ちゃんの隠し事は皆さん予想がついたことでしょう。それは次回です。って、まだ続くんですね、これ。何処まで続くのやら‥‥。気の向くままって感じですかね。



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