Fresh Kids !  7


 一度二階から降りて来た波児だが、冷蔵庫の冷凍室から製氷皿に張った氷をビニール袋へと移し、端を縛ってタオルで包み直した即席の氷嚢を手に、脇目もふらずにトントンと二階へ上がってしまった。緊張をした面持ちは思う以上に蛮の容態がおもわしくなかったのかもしれない。

 数分後、年輩の医者を伴って戻って来た波児の顔色は先程とは打って変わって柔らかな表情へと変わり、士度の心配は杞憂であったらしいことに素直に心を落ち着かせた。士度が二階で寝ている蛮の様子を聞きたそうに見上げれば、波児は安心させるようにニコリと笑ってやる。

 普段はいがみ合ってばかりの二人だが、やはり小憎たらしさ万倍の相手が、意気消沈している今の状況では、張り合いがないのだろう。

 彼はおっきくても、ちっちゃくても『ケッ!』と、世を嘗めてもらわなくては。

「心配はいらん。ただでさえ大人の体から子供の体へ縮んじまうという負荷がかかってるところに、いろいろ思うところがありすぎたんじゃろうよ。彼は案外考えすぎる質じゃないかね。ま、今回はただの知恵熱じゃろうし。子供にはよくあることさね」

 士度の心配顔に答えてくれたのは、波児ではなく伴った医者の方だ。とはいえ、正規の医者ではないのは一目瞭然のうさん臭ささに一抹の不安を抱きながらも、誰が保険証どころか戸籍さえ妖しい裏社会の住人など気楽に診てくれるものか。色々と恐くてまともな医者に等に診せられる道理もない。

 サングラスふぜいに浮き沈みをしている役立たず共を尻目に、波児の旧知らしい医者に往診を頼んだ素早さはさすが『疾風の王』と言わねばならない。(いや、あまり関係はないが)

 士度はうなづき、「じゃあ……」と口を開けば、

「そう言うことだ。三つくらいの幼児なら、ほんの少しの環境の変化で高熱だって簡単に出るそうだ。脇の下を冷やしておけば、じき下がるとさ。このじいさんは、もぐり医者だが腕はいい。免許を持ってるだけのヤブにかかって悪くなるより、多少後ろめたさの残る治療でもぴんぴんしていた方がよいだろう。その男が大丈夫だと言うんだから間違いはないさ。まあ、それでも何日も熱が下がらないようなら、また往診してくれるらしいしな」

 もぐりだという医者の言葉を引き継いで波児は、意味深にニヤリと笑いながら嘯くのを、彼は思いっきり鼻をならして、波児の評価に満更でもない表情で唸るように言い返した。

「もぐりだけは余計じゃわい。ゆうておくが、往診代は特別料金でもらうからのう」

「ち! 相も変わらずがめついじいさんだ」

「当たり前じゃ。世の中信用出来るのは金だけじゃからな」

 そっけのない言い方ではあるが、実のところ彼が、仁術の医師であることを士度は知っている。

 がめついと言いながらも治療を受ける患者側は、うれしそうに多めの治療費を置いてゆくのは何故か? 彼が施す医療は的確で、しかも、きちんと責任を持つからでは無いだろうか。

 裏に生きる人間にとって、これは相当な恩だ。自分を個人を、きちんと見てくれる相手なのだから。





コメント:此処まではよしのさん作です。(最後の文は焔が書き足したんですが)よしのさんがGBから他ジャンルに移動した為、この先は焔が担当して全部書きます。完結させるつもりはあるので、どうかのんびりとお付き合い下さい。(文責焔)





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