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蛮ちゃんが、また怪我をした。 「自分をもっと大事にしてよぉ」 「へいへい」 吊られた右腕の包帯が痛々しくて‥‥‥
そんな怪我では当たり前のことだがてんとう虫くんの運転もままならなくて、見かねた波児さんがホンキートンクの2階をかしてくれたんだ。 「ゆっくり、休んでね」 「ああ‥‥」 なんだかんだと文句を言う蛮ちゃんを何とかベッドに押し込んで布団をかぶせてやった。 文句を散々言っていたけど、布団をかけたら大人しくなったから、起きているだけでも身体は辛かったんだろう。 怪我の所為で熱も出てきたみたいだし。 目を閉じた蛮ちゃんから、直ぐに穏やかな寝息が漏れ出して、オレはくすりと微笑んだんだ。
熱はかなり高く、オレをはらはらさせたけど、今はすっかりと引いて、穏やかに眠る様子にほっと胸をなでおろす。 熱で苦しそうにうなされる蛮ちゃんに、どうしてやることも出来ないことが辛かった。 怪我の原因だってオレなんだし。 熱が下がったことに安心したオレは、ひそかに進行していた最悪な事態にはこの時はまだ全く気がついてはいなかった。 もし、このときに気がついていたとしても、実際にオレにこの時点では出来る事は何も無かったのだから同じことだろう。
オレは、前にそびえる古い洋館をにらみつけた。
「蛮ちゃん。起きて〜。ご飯だよ。お腹空いたでしょ? 2日も眠ってたからね〜」 波児さんにお願いして、作ってもらった2人分の朝食を手に持って、オレは蛮ちゃんが眠っている部屋に入った。 蛮ちゃんはぽっかりと目を開けていたけど、オレの方にその瞳が向けられることは無かった。 (きこえなかったのかな?) 蛮ちゃんは考え込むと、周りの音なんか全く聞こえなくなる。考えていることに集中しすぎちゃうせいなんだろうけど。 この時の蛮ちゃんの様子にオレは単純にそう思ってた。 まだ寝てるかもと思ってたから、起きててくれたことは良いんだけど、考えに没頭されてたら同じことだよね。 「蛮ちゃん! ご飯だよ!」 オレは大きめの声で叫んだ。 けれど、蛮ちゃんの反応は無い。 「蛮ちゃん!」 耳の横で大きな声をだす。 絶対にこれなら気づく筈。 なのに、蛮ちゃんは全くの無反応。姿勢も目線もさっきまでと変わらない。流石にこうなればオレだっておかしいと気がつくものだ。 持ってたご飯を脇に置くとベッドに乗りあがり、真正面から蛮ちゃんを覗き込んだ。 綺麗な宝石のような色彩を持つ、瞳。 いまこの色の瞳を持つのは、この世界に蛮ちゃんただ一人。 それを覗き込んでも、瞳が揺らぐことは無かった。それどころか、手を近づけてみても、瞬きしない。ずっと何も無い宙を見据えたまま。 「蛮ちゃん? ねぇ、蛮ちゃんてば! どうしちゃったの?」 声をかけても、身体を揺さぶっても、蛮ちゃんからはなにも返ってはこなかった。
ネクスト→
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