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「脳に損傷等の異常は発見できませんでした。ですから、一時的なものだと判断できます。恐らくですが、怪我を負った時のショック状態のようなものではないでしょうか。怪我も見た限り、かなりの重症ですし‥」 異常な蛮ちゃんに、波児さんに頼んで病院に連れてきてもらい、診察してもらってから、お医者さんが言うのはそんなことだった。 でも、今回のような怪我の所為だって言うんなら、これくらいの怪我は蛮ちゃんはしょっちゅうしてる。それが原因なら蛮ちゃんは毎回こんな状態になっていなきゃおかしいことになる。 それは無いから、お医者さんの言うことが、原因じゃないってオレには思える。 だからって、他の原因なんて全く思いつかないんだけどね。 「こんにちは、お邪魔するわね」 「あなたは?」 突然診察室に現れた女性にお医者さんは困惑したような感じだった。 「マリーアさん!」 「こんにちは、銀ちゃん。私はその子の保護者よ。波児さんから連絡をいただいたの」 お医者さんは納得したのか、オレに話してくれた事をマリーアさんにもう一度繰り返して話した。 「そう、わかりました。退院出来るようになったら、家に連れて帰るわ。連絡先は此処で‥」 マリーアさんはきっぱりとそういうと連絡先を書いたメモをお医者さんに渡して帰っていった。
それから一週間後、怪我の状態が落ち着いたからと、蛮ちゃんは退院してマリーアさんの家に行ってしまった。 てんとう虫くんとオレはホンキートンクの波児さんの元にお世話になっている。 蛮ちゃんはいない今、てんとう虫くんの中で寝泊りすることは難しかった。オレは運転できないから移動させることも出来ないんだ。それこそ駐禁とられほうだいになっちゃうよ。 今回蛮ちゃんが怪我を負った時の仕事の報酬があるからお金はあるんだけど、蛮ちゃんの状態を考えると、あまり使えない。 そう正直に波児さんに言ったら、ホンキートンクにいればいいといってくれたんだ。まあ、代わりにお店の皿洗いとかのお手伝いはするんだけど。 波児さんは、ちゃんとそれにも報酬をくれると言った。尤も、それはツケ分を引いてくれるって事なんだけどね。 朝の開店準備とランチタイムの皿洗いがオレの仕事。それが終わったら、マリーアさんの家に蛮ちゃんの様子を見に行く。 この繰り返し。 蛮ちゃんの様子はまったく変わらなくって、自分からは何もしない。意思が存在していないんだそうだ。 今日で、既に2週間。 蛮ちゃんは、今日も座った椅子から動かず、宙をぼーっと見ている。 「銀ちゃん。実はね、貴方にお仕事を頼みたいの。受けてくれる?」 「蛮ちゃんがいないから、勝手には受けられないよ」 「わかってるわ。でも、貴方達『Get Backers』にではなくて、天野銀次個人に仕事をお願いしたいのよ。というか、貴方にしか出来ない仕事なの」 「‥‥、蛮ちゃんの、事? 話して」 「ありがとう。奪り還えして貰いたいのは、予想通り『蛮の魂』よ。心って言っても良いわね。」 「蛮ちゃんの‥心‥」 「そう。それが奪われてしまっているから、蛮はあの状態なの。ただ、生きているだけ。だから‥」 「それを、取り返せば、蛮ちゃんは治るの?」 「ええ、元通りの、蛮。それが報酬よ。どう?」 「任せて! 天野銀次、絶対に蛮ちゃんの心を奪還してみせるよ!」 「ありがとう。で、蛮の「魂」のある場所なんだけど‥、漸く突き止められたの。それは‥」
ネクスト→
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