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慎重に建物に近づいて、そっと中の気配を探る。 苦手だなんて意識はこの際忘れる事にした。 建物の中や周囲に人の気配は、予想した以上に少なかった。そのことに少しだけほっとした。 なんにせよ、周囲の人の気配に気を配りながら行動‥、というのは少々どころかまるっきり出来そうに無いからだ。 これで、発見される可能性は幾分でも少なくなる。 建物にたどり着くと、壁に身を寄せ、そろりそろりと移動した。と、人間の気配と少しだけ違う感じがする気配を感じた。 (ひょっとして、これがマリーアさんが言ってた『魂』っていうモノの気配かな?) 窓を見つけ、中を覗く。内側に掛かっていた、昔は豪華だっただろうカーテンの残骸とも言うべきボロ布の隙間から見えた室内は薄暗かった。 けれど、中に銀色の小さな鳥かごみたいなものが数個置かれていることだけは見て取れた。 (これがマリーアさんがいってた奴かな‥) 蛮ちゃんの魂が捕らえられている、かご。呪が掛けられているとか言っていた。そうならば暗い中でも見えるという不思議も納得できる。 室内には、人間の気配はない。 けれど少し離れた処にはひとつある。アレが、見張りかもしれない。 気づかれない程度に窓をゆすってみたけれど、鍵が掛かっているのかびくともしなかった。そこの周囲を見回して、建物の中に進入出来そうな場所を探したが、小さな明り取り用の窓が数個並ぶだけの場所が続いているだけだ。 隠し通路になっているのかも知れない。 じゃ、2階はと上を見上げると、そこの窓が少しだけ開いている。 オレの目の前には真っ直ぐ伸びた大きな木もあり、都合がいい。 といっても、その木の枝が窓近くまで伸びている、なんてことは無い。 窓と木の間はおよそ5メートル。枝が伸びても届くような距離じゃない。都合がいいのは、木がクリスマスツリーのようにみっしりと枝葉が茂っていることだ。 これなら、木に登っても発見されにくいだろうから。 オレはするすると木に登り、出来る限り建物側に近づいて、気配を探った。 最初に探った時と、あまり変わっていないように思う。ということは、オレは見つかるようなドジはしてないって事だ。そして、動きが無いということは、今目の前の2階の部屋は無人だということだ。上手くいけば此処から中に入れるだろう。 古い造りの窓にはさびてしまっているが、金属の取っ手が付いている。 「あれを、上手く引き寄せられれば、窓が開くよね‥」 自分を元気づける意味もあって、小声で呟いた。蛮ちゃんに仕事中に質問するかのように‥。 蛮ちゃんから『ああ、だから、しっかりやれよ』なんて返事が聞こえたような気がした。 気を引き締めて、幻聴に大きく頷いた。 大きな音をたてて、気づかれてしまっては意味がない。だから、いつも以上に慎重に、窓に向けて伸ばした指先に電気を集めた。 電磁石であの取っ手を引っ張るのだ。 ゆっくり‥‥、焦らず‥‥、慎重に‥‥。 ギ、ギ、ギ、ギっときしむ音を立てながら、窓が少し開いた。 錆びた金属はもろいから過剰な力は掛けられない。強く引きすぎれば、簡単に取ってだけが外れてしまいそうだ。
額に汗をびっしりと浮かべながら、かなりの時間を掛けて、漸く窓が開いたのだった。 「さて、こっからが、ちょっと賭けだよね。蛮ちゃん! 上手くいくように、祈っててね」 窓に対して身体を半身に開き、片手を木の幹に付ける。 大きく深呼吸をひとつして、オレは木の幹と手の間に電気を集めた。 磁石の反発する力を利用して、オレは5メートル近い距離を跳躍して、開いた窓の中に飛び込んだのだった。
ネクスト→
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