名前を呼んで 09

(な、何で蛮ちゃんが‥‥)

蛮ちゃんの身体はマリーアさんが守っていたはずだ。それが、ひょっとしてもう身体も奪われていた?

オレはパニック状態だった。兎に角、ありえないと思っていた現状が目の前に突きつけられたしまったのだから。



「ぴいっ、ぴっぴっ?」

小鳥の鳴き声で、蛮ちゃんが何か言いながらオレの頬をぺちぺちと叩いていて、漸くオレは我に返った。

涙で頬が濡れている。

蛮ちゃんは不思議そうに小首を傾げて見上げていた。

「ご、ごめん。何か頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃって‥‥」

冷静になって改めて考えてみれば、蛮ちゃんの身体も此処にあるのなら、なにも魂だけをあの籠に閉じ込めて置かなくてもいいはずだ。

それに、此処に来てまだ数時間しかたっていない。その間に人間が出入りしたような気配は感じなかった。

オレが向こうを出るときには、蛮ちゃんは椅子に座ってそこに確かに居た。

そうやって落ち着いて見てみれば、椅子に座った人物と蛮ちゃんとの決定的な違いを見つけた。

さっきは気が動転しすぎてて、そんなことにも気づけなかったんだ。

違いは2つあった。

1つ目は、右肩の傷跡。何度も同じ場所を怪我した所為で引きつったような跡が今も白い肌にくっきりと残っている。それが無い。

2つ目は、瞳の色。あの宝石以上の輝きを持った不思議な青紫の色じゃなかった。



「あの瞳は遺伝じゃ無いのか?」

「クローニングしても本人と全く同じになるわけではありません。遺伝的には同一の筈ですが‥」

「あの瞳が無ければ、この身体を「王」の器になどできん」

「しかし、ここまで無事に成長できたのはこれ一体ですし、また一からではさらに一年は掛かります」

「新月まではあと数日。仕方が無い。これを仮の王の器として、やはりオリジナルを手に入れるしかあるまい」

目の前の男達は何か良くわからない難しい話をしている。でも、やっぱり蛮ちゃんの身体じゃないということだけはわかった。

「試しに並みの魔女の魂を入れてみたのですが、定着するどころか身体に宿る魔力にさえ耐え切れず消滅する有様で‥」

「並の魔女ではこの身体を維持する事もできんとは、さすが、我が「王」」

「こうなれば一刻も早く、あの裏切り者とでも言うべき魔女から、王を取り戻し、王国を復活させましょう」

(我が王? ってことは、ひょっとしてこの人たちって、蛮ちゃんと同じ魔女の一族の人?)

男達は変わらずに憑かれたように熱っぽい会話を繰り広げていた。

内容は、どれもこれも蛮ちゃんの意思なんてお構いなしなモノだった。







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