![]() いつも、魔女達から『王』って呼ばれるたびに蛮ちゃんは否定していた。俺は王になんかならないって。 魔女達のしきたりなんかどうだって良いって。
魔女達にとって、蛮ちゃんの意思なんていらないものなの? 蛮ちゃんの身体だけあれば、いいの? 心なんて、いらないの? 何て身勝手な人たちなんだ。 唖然としているオレを蛮ちゃんが心配そうに覗き込んできた。 「ご、ごめんね。ぼーっとしてる時間無いよね。あの身体をどうにかしなきゃいけないんだよね?」 「ぴいっ」 そのとおりと言う様に蛮ちゃんは頷いた。 「で、でも‥‥どうしたらいいんだろ?」 いくら蛮ちゃんの偽者ので空っぽな身体とはいえ、蛮ちゃんにそっくりなんだ。その身体を、「殺す」なんて事はオレには出来そうに無い。 そんなオレの心情を読み取ったものか、蛮ちゃんは何か別のところを指差していた。 「アレって‥、配電盤?」 こくこくと蛮ちゃんが頷いた。 「そっか、この部屋の電気を全部落としちゃえばいいのかも。 蛮ちゃんそっくりな身体には良く見れば何かのコードやチューブがたくさん繋がっている。ということは多分、それらが無いと生きていられないってことなんだろう。 そして、それは電気で、機械で動かされているはず。だから、それを絶てば、自然‥‥‥。 (蛮ちゃん! ごめんね) 心の中で、オレは叫んで配電盤にありったけの電気を叩き込んだのだった。
一瞬のうちに辺りは暗闇になった。 この部屋に窓なんて無かったから電力が絶たれ、明かりが消えればこうなるのは当たり前だった。 そうして、この状況になれば、当然‥ 「侵入者がいるぞ! 誰か!」 「探せ! 予備電力をこの部屋に急いで! 折角のクローン体が死んでしまう!」 「誰か、明かりを点けてくれえぇ!」 さまざまな叫び声が入り混じる。 そうだよね、バレるよね。今は機材の影に隠れてられるけど、いつまでもここに居るわけにはいかない。 さぁ、どうしたら、いい?
此処に閉じ込められてしまえば、折角取り戻した蛮ちゃんをまた奪われてしまうということだ。早く蛮ちゃんをマリーアさんの元に連れて行って元に戻してもらいたいオレとしては、その状況は勘弁してもらいたいのが本音だ。
相手は今は3人。 ぐずぐずしてれば駆けつけた人数分増えてゆくはずだ。 迷ってる暇なんか無い! オレは覚悟を決めて、蛮ちゃんを上着の内側に隠すように抱えると、立ち上がったのだった。
ネクスト→
![]()
|