名前を呼んで 10

いつも、魔女達から『王』って呼ばれるたびに蛮ちゃんは否定していた。俺は王になんかならないって。

魔女達のしきたりなんかどうだって良いって。


魔女達にとって、蛮ちゃんの意思なんていらないものなの?

蛮ちゃんの身体だけあれば、いいの? 心なんて、いらないの?

何て身勝手な人たちなんだ。

唖然としているオレを蛮ちゃんが心配そうに覗き込んできた。

「ご、ごめんね。ぼーっとしてる時間無いよね。あの身体をどうにかしなきゃいけないんだよね?」

「ぴいっ」

そのとおりと言う様に蛮ちゃんは頷いた。

「で、でも‥‥どうしたらいいんだろ?」

いくら蛮ちゃんの偽者ので空っぽな身体とはいえ、蛮ちゃんにそっくりなんだ。その身体を、「殺す」なんて事はオレには出来そうに無い。

そんなオレの心情を読み取ったものか、蛮ちゃんは何か別のところを指差していた。

「アレって‥、配電盤?」

こくこくと蛮ちゃんが頷いた。

「そっか、この部屋の電気を全部落としちゃえばいいのかも。

蛮ちゃんそっくりな身体には良く見れば何かのコードやチューブがたくさん繋がっている。ということは多分、それらが無いと生きていられないってことなんだろう。

そして、それは電気で、機械で動かされているはず。だから、それを絶てば、自然‥‥‥。

(蛮ちゃん! ごめんね)

心の中で、オレは叫んで配電盤にありったけの電気を叩き込んだのだった。





一瞬のうちに辺りは暗闇になった。

この部屋に窓なんて無かったから電力が絶たれ、明かりが消えればこうなるのは当たり前だった。

そうして、この状況になれば、当然‥

「侵入者がいるぞ! 誰か!」

「探せ! 予備電力をこの部屋に急いで! 折角のクローン体が死んでしまう!」

「誰か、明かりを点けてくれえぇ!」

さまざまな叫び声が入り混じる。

そうだよね、バレるよね。今は機材の影に隠れてられるけど、いつまでもここに居るわけにはいかない。

さぁ、どうしたら、いい?



此処に閉じ込められてしまえば、折角取り戻した蛮ちゃんをまた奪われてしまうということだ。早く蛮ちゃんをマリーアさんの元に連れて行って元に戻してもらいたいオレとしては、その状況は勘弁してもらいたいのが本音だ。


相手は今は3人。

ぐずぐずしてれば駆けつけた人数分増えてゆくはずだ。

迷ってる暇なんか無い!

オレは覚悟を決めて、蛮ちゃんを上着の内側に隠すように抱えると、立ち上がったのだった。




ネクスト



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