名前を呼んで 15

それから3日後の新月の夜に蛮ちゃんの魂は元通りの身体に戻された。

それを、ちょっと残念に思う気持ちも確かにある。

魂だけの蛮ちゃんは、本質のみで性格が形成されている所為なのか、寂しがり屋で直ぐに甘えて来て、すっごく可愛かった。普段の蛮ちゃんじゃ絶対にそういう行動はしてくれないもんね。

魂だけの時は比較的に素直な反応をするもんだってマリーアさんがこっそりと教えてくれた。

でも、オレにとってはどっちの蛮ちゃんも可愛いからいいんだけど。

魂の蛮ちゃんの写真も撮ったし、後で夏実ちゃん達にも見せてあげよっと。ああ、勿論、蛮ちゃんには内緒でね。





蛮ちゃんは、眠っている。

長く魂と身体が離されてしまっていたから、少なくとも丸一日は眠って魂と身体をなじませるんだって。

それでも、直ぐに元通りとはいかないらしい。目を覚ましたら、身体を動かす練習がいるんっだって。まあ、蛮ちゃんは全く身体を動かしていなかったから、どの道鈍ってしまっているんだろうから鍛錬は必要なんだろうけど。

マリーアさんは2、3日の辛抱だって言ってた。

穏やかに眠る蛮ちゃんの寝顔。魂が無かったときと同じように見えて、どこと無く違う気がする。

「‥んっ‥じ‥」

じっと蛮ちゃんを見つめていたら、小さな声で寝言を呟いてもぞもぞとみじろいだ。

「え? ‥いまのって‥‥」

蛮ちゃんの寝言はオレの名前だった。

「ずっと‥‥、呼んでてくれた?」

助けてくれた時だけじゃなくて?

オレだけが、呼んで居たんじゃない。蛮ちゃんも、オレを呼んでいてくれたんだ。

「早く、目を覚まして、もっと、呼んでよ。いつもみたいに「銀次」って」

すやすやと眠る蛮ちゃん。そっか、違いがわかった。

今までは眠っていても、寝返りも、身じろぐことも、まして寝言を言うなんてことも無かったんだ。

「魂が無い蛮ちゃんなんて、2度と見たくないよ‥」

早く目を覚まして、いつもの表情で、いつものように、オレの名前を呼んで。

「待ち遠しいなぁ‥‥」



蛮ちゃんの寝顔を見ながら、オレもいつしか眠りの中に入り込んでしまっていた。





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