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「やほ〜、久しぶり。何か用事? 士度」 「え、あ、いや‥‥。そういう訳じゃ‥‥た、偶々、通りがかっただけだ」 「けっ、な〜に言い訳してんだよ、猿が!」 「うるせ〜、テメェこそ随分と珍しい事してるじゃねぇか。普段の足はどうしたんだよ」 「それこそよけーなお世話だ!」 角付き合わせるように顔を見れば兎に角歯をむき出してケンカをする2人を、まーまーと間に入った銀次が分ける。 「蛮ちゃんは練習するんでしょ? まだ支えが要る?」 「ちっ。平気だ、と思う。兎に角一度は乗れているんだしな。コツはなんか分かった気がするし‥」 「そう? 無理はしないでね」 蛮は心配そうな銀次に安心させるように微笑みかけ、そのまま士度を無視して背を向けた。押していた自転車にまたがると、多少ふらつくものの、ちゃんと乗れている。 「さすが‥‥、覚えちゃうの、早いね。蛮ちゃんは」 士度は銀次の呟きに返事も返さず、ただふらふらと去って行く背中を見送った。 「‥‥‥で、本当は、何?」 「い、いや。ここいらの小鳥達が、お前らが何か変った事をしているって、ほぼ毎日のように告げに来るもんで、一体何やってるのか‥と」 「気になったわけだ」 「ああ、流石にこうも長い期間だとな」 ちらりと士度が銀次を見れば、彼は心配そうな顔をして広い場所で四苦八苦している蛮を見ている。 「そっか、結構長いか〜」 「‥ずっと、‥‥‥なのか?」 「え? ああ、蛮ちゃん? 蛮ちゃんが練習始めたのはまだ3週間くらい前だよ」 銀次の答えに士度はえ? と、驚いた顔をした。 「もっと前じゃ、ないのか?」 「ああ、それはきっと俺の方の事だよ」 「え? 銀次の、方?」 「うん。アレ、こないだの誕生日のお祝いにって、貰ったんだ」 銀次は苦笑しながら、蛮の乗る、自転車を指差した。蛮の方は、カーブしようとしてはバランスを崩し、足を慌てて着くという動作を繰り返している。 「あ、ああ、そう言えば‥‥」 士度は、その時の光景を思い出していた。あの時は用事が入っていたので、銀次にプレゼントを渡して、乾杯だけ付き合って帰ってしまったのだった。その時店内にあの自転車が置いてあったのを、確かに見た覚えがある。 (道理で、蛇の奴が丁寧に扱うわけだ) 銀次の私物は少ない。蛮の自転車への扱いも、そんな彼の私物だからだろう。 誕生日のプレゼントも、銀次なら圧倒的に食べ物を貰っただろうから。まあ、普段の生活がアレだから、かもしれないが、今回もきっとそうだったはずだ。と、すれば、自転車はきっとあの店のマスターあたりからだろう。他のメンバーなら食べ物だった筈だ。士度だって、まどかお勧めの店のクッキーだったのだから。 勿論、銀次がそういうものに一番喜んで見えるから、という理由もある。無限城に居た頃の雷帝のとしての彼は、あんなふうに無邪気に喜んだりする事はなかったのだ。だからこそ、無邪気にはしゃぐ彼の姿を見たいと言う思いも否定できない。 士度の物思いを破るように、ガシャンという派手な音と共になさけない事この上ない蛮の悲鳴が上がったのだった。 「うわっ、蛮ちゃん! 大丈夫?」 銀次は慌てて蛮の元へ走って行こうと数歩進んでから、思い出したように士度を振り向いた。 「そうだ。蛮ちゃんがちゃんと自転車に乗れるようになったら、みんなでサイクリングに行こうって計画があるんだ。士度も参加してね。日にちとかは決まったら教えるから。じゃあね〜」 言うだけ言うと、銀次はわき目も振らず蛮の元へと一直線に駆けていった。 「サイクリング‥‥? 俺が? マジかよ」 士度の呟きは、幸いな事に銀次には聞えていなかった。 |