銀色の自転車 11


「大船に乗った気で、待ってろよ」

「そう、俺たちはほぼ100%成功の無敵の奪還屋だから」

「ほぼって言うな!ほぼって!」

「ご、ごめんなさーい」

姦しい遣り取りはいつもの事だ。けれどあの2人のこんな遣り取りが依頼人をリラックスさせるのも確かだ。尤もかえって不安になる人の方が多いのだが、それはやはり2人がまだ「若い」少年だからだろう。

「あ、あの‥‥」

「大丈夫ですわよ。「腕」は確かですから。保証します」

不安そうな依頼人にヘブンはにっこりと営業スマイルを見せ付ける。

ヘヴンにとってそれは演技するまでもない。この2人を本当に「信用」している。それだけだから。

だからこそ、その優雅で揺るがない笑顔に依頼人はホッとする。そうしてから改めて2人の遣り取りを見れば、絶対の自信に裏づけされた余裕として見えて、ストンと肩の力が抜けたようだ。

「んじゃ、早速いきますか。蛮ちゃん」

「おうよ、ちょっくら行ってくらぁ」

勢い良く立ち上がったGBに、「よろしくお願いします」と、依頼人は頭を下げた。

「怪我すんなよ」

「行ってらっしゃい」

「気をつけて‥‥」

「しっかりね!」

店内からさまざまな声に送られて、彼等は軽く手を上げて応えにしてドアを抜けていった。

「予定通り、明日には『ターゲット』は貴方の手元に戻ってきますわ」

「本当に、何と言って良いか‥」

「それが私の、それに彼等の仕事ですもの。それに見合った報酬を頂くわけですから。では、明日改めてお待ちしておりますわ」

「ええ、では、失礼します」

依頼人は優雅に会釈をして店から出て行った。来る前とは別人のようにきびきにとした動作だった。

「ふう〜、毎度毎度あの2人にはひやひやさせられるわ。全く。でも、銀ちゃんが妙に張り切っていたけど、何かあるの?」

「うふふふ。あのですね、ヘヴンさんも予定が入っていなかったら参加しませんか?」

夏実がコーヒーのおかわりを差し出しながらにんまりと笑う。

「何? なにかあるのね?」

「あのですね‥‥‥」

波児は苦笑を浮かべて楽しそうな夏実を眺めていた。

この分なら当日は一体何人の参加者が集うのだろう。多人数になる事だけは間違いないだろう。


「へぇ〜、それでサイクリングに行こうってわけなのね?」

「そうです〜」

詳しい話を夏実とレナから聞いたあと、ふうんとヘヴンは顎を手に当てて呟いた。

「それにしても蛮君も自転車に乗れなかったとはね〜。意外だったわ」

ふと先ほどの蛮の様子を思い出してみれば、確かに彼女達の話どおりにシャツから覗く両腕は擦り傷などの跡があった。絆創膏も貼ってあった。

彼らが怪我をしているなんて近頃は、わりとあるせいか、あまり気にしなかったが。

ここ一ヶ月ほど別件でヘヴンは新宿を離れていた。その間の出来事らしい。

「残念〜。乗れるようになる前だったら虐めてあげたのに」

「そりゃ、店への被害が増えたろうから、俺としちゃヘヴンちゃんがいなくって幸いだったってことかな」

波児がヘヴンの不穏な発言に突っ込みを零せば、彼女はあっけらかんとした笑いを漏らした。

「あはは、だってこんなネタでもなきゃ、からかえないじゃない。蛮君、ムキになるから面白いんだもの」

「で、どうです? 参加しませんか?」

夏実とレナがニコニコと期待した顔で聞いてきた。

「9月の10日ね。今のところ予定は入ってないから、参加するわ。もしかすると転ぶとこ見れるかも知れないんでしょ? 参加しないわけにはいかないですとも!」

くくくと喉の奥で笑いをもらし楽しそうな様子だ。めいっぱい期待しているのだろう。蛮の普段見れない様子を。

「じゃ、へヴンさんも参加ということで」

「ねぇ、今のところの参加者って、他に誰がいるの?」

「え〜とですね、今のところは‥‥」

   発案者の夏実とレナ、銀次、蛮、士度、笑師、波児、ヘヴン。手伝い参加でまどか+運転手。

総勢10名といったところか。

「結構人数いるのね。あ、でも、他にも参加する人居そうよね? 声かけてみてもいいかしら?」

「誰か宛があるんですか? ヘヴンさん」

「レディ・ポイズンよ」

「あ、卑弥呼さんですね。いいですね」

「是非、誘ってみてください」

二人の賛同にヘヴンはウィンクで返した。

「でしょ? 結果は明日ね。この後の予定の時間が迫って来ちゃったからまたね」

カウンターにコーヒーの代金を置くと颯爽と歩いていった。


「ヘヴンさんの自転車って、どんなのでしょうね?」

レナが夏実にそう問えば、彼女は顎に指をあてて考えた。

「ん〜、きっと『ゴージャスな自転車』なんじゃないかな?」

ゴージャスな自転車‥‥‥

それは一体、いかなる代物だ? と、突っ込みたい波児であったが、如何せん女の子の会話には口を突っ込まない方がいいのである。

彼女達はある意味世界最強の存在なのだから。世界最狂かもしれないが。

(しっかし、どんどん大事になってるな‥‥‥。ホントに雨が降ったら大変だな)

新聞の天気予報では、暫く晴れが続くらしい。

9月になれば、今の気温ももう少し下がり、過ごしやすくなりサイクリングには最適だろう。が、反面、台風がきたりすれば暴風、大雨等で何も出来ないだろう。

「天気がいいと、いいな」

ボソリと波児が呟けば、耳聡い少女二人はすかさず『はい』と声をそろえて返事をしたのだった。



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コメント

さぁ11です。そろそろメンバー揃いだして参りました。次は花月か卑弥呼の予定です。

フルメンバー揃えば、あとはサイクリングに行って帰ってくれば終るハズ‥‥




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